場外離着陸場のHマークはどう描く?|自治体担当者のための完全ガイド【技術編2】

はじめに
ここまで、これら↓の記事で場外の作り方について解説してきました。
ここまで読むとこんな疑問が湧いてくるのではないでしょうか。
ヘリポートには何か標識を描かないといけないの?
どんな風に描いたらいいの?要するにマルHがを描けば良いの?
何か法律で決まっていると思うんだけど?
実は場外離着陸場の離着陸地帯標識の描き方は、国内の明確な法令基準がありません。
「ヘリポート」(恒久施設)には一定の基準がありますが、いわゆる「場外」はその対象外です。
これは場外離着陸場(以下「場外」)の整備に取り組む自治体の担当者から、私が必ずといってよいほど受けてきた質問です。疑問に持つこと自体もとても自然なことですし、それでいて明確な法令や基準がないのですからこんな風に迷うのは至極当然です。
そんな悩める防災担当者の皆様のために、この記事では私が航空運用と自治体業務の双方で得た知見をもとに、「場外の離着陸地帯標識をどう描けばいいのか」 をやさしく具体的に解説します。
あわせて読みたい:
→場外離着陸場とヘリポートの違い-自治体担当者めの完全ガイド【知識編】
場外離着陸場のHマークの描き方には明確な基準がない
先ほど、「日本には場外専用の離着陸地帯標識を規定した明確なルールは存在しない」と申し上げました。
では世界的にはどうかと言うと、一応一定の”世界標準”があるにはあるのですが、それはいわゆる「本当のヘリポート」のための基準であり、場外に適用するものではありません。
だから離着陸地帯標識をどう描くかは設置者の自由なのです。もちろん、何も描かなくても違反ではありません(離着陸地帯の境界を示す標識のみ状況によっては義務;後述)。ただ、国内では実務を通じて広く使われるようになった標準的な考え方があります。
せっかく描くなら「本当に役に立つ」標識にしたいですよね。
あわせて読みたい:
→場外離着陸場整備でありがちな失敗例5選-自治体担当者のための完全ガイド【実務編】
そこでこの記事では、私が自治体へのコンサルで実際に説明してきた離着陸地帯標識の描き方を紹介したいと思います。
Hマークの描き方の例:サイズ・向き・色の考え方
予めお断りしておきますが、これから述べる「描き方」は一例ですから、最終的な仕様は必ず当該地を管轄する運航者(消防航空隊など)に相談して決定してください。
標識(マルH)は可能な限り大きく描く
上空から見て「ここだ」と分かるようにすることが本来の目的ですから、視認性を優先することは言うまでもありません。だから離着陸帯いっぱいにできるだけ大きなサイズで描くと良いでしょう。
下の写真は、私がコンサルした場外の一つです。離着陸地帯の一辺は約40mで、この正方形一杯に描いてもらったため遠方からも非常によく見えます。

比較のために、標識を小さく描いたケースをごらんいただきます。どこに場外があるかわかりますか?
(ちなみに、この場外は私が知らない内に出来上がっていました。)

正解はこちらです↓。画面中央にご注目ください。
このマルHの直径は約8m。大きく描くことの重要性がおわかりいただけたでしょうか。

Hマークのコントラストを高くする
背景と塗色が近ければ見えづらくなります。例えば、コンクリートは白っぽいので、白色よりはオレンジ色の方が良いでしょう。アスファルトであれば白でもオレンジでも視認性はさほど変わりません。
また、汚れて黒ずんでくると視認性は低下します。作りっぱなしではなく、その後のメンテナンスも考えておくと良いでしょう。
離着陸地帯を四角で囲う
「ここからここまでが離着陸地帯ですよ」ということが分かるよう、四角で囲います。この離着陸地帯の境界を示す標識は、この場外で離着陸する際、運航者が国交省に申請をする際に求められる条件でもあります。

え?場外で離着陸するのに運航者が許可を申請?どういうこと?
場外に離着陸するには、原則として運航者が自ら申請する必要があります。ここがヘリポートと場外との大きな違いです。
詳しくはこちらの記事で説明しています。
場外離着陸場とヘリポートの違い-自治体担当者めの完全ガイド【知識編】
あわせて読みたい:
→3分で分かる!ヘリが申請していない場所に着陸できる理由とは─“捜索救助の特例”を解説
実はマルHは必須ではない
実は、国際標準には「マルH」の規定がありません。海外でも例外的に使われる国はありますが、世界的には一般的ではないのです。
実はこれ、わが国では視認性を向上するために使用されてきた慣習に過ぎないのです。
だから必ずしも「H」を円で囲む必要はないのですが、国内ではすっかり定着しているというが実態。なのでこれまでどおり「マルH」にしておけば地元を管轄する消防防災航空隊以外の運航者、例えば都道府県警航空隊、他県からの応援機、それに災害派遣の自衛隊機にとっても分かりやすいと言えるでしょう。
「H」の向きは「主進入方向」に合わせる
これは分かりにくい筆頭かもしれません。まず、ヘリが離着陸するときは飛行機と同じように、風に向かって地面に対し斜めに進入・離脱するということを理解する必要があります。

エレベーターのように真上から垂直に降下してくるわけではありません。
詳しくはこちらで解説しています:
→場外離着陸場設置基準とは-自治体担当者のための完全ガイド【技術編】
これを踏まえ、「H」の文字は “ヘリが読むもの”なので、最も頻度の高い進入方向に正対させて描くことが”通例”です。

“最も頻度の高い進入方向”ってどういう意味?
周囲の障害物の状況や、直上通過を避けるべき施設、その土地で吹きやすい風の方角などを勘案して想定する進入方向のことです。これは運航者でしか判断できません。
無意味に傾けたり、横に寝かせたりすると、パイロットにとっては違和感を感じる原因になります。こうしたこともあるため、標識の仕様は必ず運航者に相談しながら決定していく必要があります。
塗装には「液体塗料」を推奨(溶融塗料は不適)
路面に塗装するからということで、溶融塗料を選択する例が時々あります。
「溶融塗料」というのは、粉体を加熱し溶融させて塗布する塗料で、道路の白線や横断歩道に使用されるもので、2mmほどの厚みがあるのが特徴です。ただ、これはコンクリートと相性が悪いのか、それとも施工が悪いのかわかりませんが数年経つ内に自然にひび割れて剥離してしまいます(下写真)。

その上、剥離した破片がヘリのダウンウォッシュで飛散する可能性があるため避けたほうが無難です。
弾力性のある自動車のタイヤと違って、ヘリの固い金属製のスキッドで踏みつけるせいか、割れてしまう例もありました。なので、液体塗料(道路用のペンキ)をお勧めしています。
液体塗料は汚れのため清掃又は再塗装が必要になるケースもありますが、溶融塗料よりも施工は安価です。同じ地面に塗装するにしても、頻繁にタイヤで摩擦される公道とは塗装の置かれる状況が違う点に注意が必要です。
塗装の他、場外整備に関する失敗事例をこちらで紹介しています:
→場外離着陸場整備でありがちな失敗例5選-自治体担当者のための完全ガイド【実務編】
Hマークを描く目的-パイロットのためだけではない
ところで、案外見落とされがちな視点ですが、ここで改めて離着陸帯標識の目的を考えてみたいと思います。
もちろん第一にはパイロットに向けた目印ですが、そのほかにもう一つ重要な役割があります。
それは、地域一般の人々に対しその場所がヘリコプターの離着陸場所であることをアピールすることです。これにより…
- そこが災害が発生したときに使用する重要な施設であることがわかる
- 無断使用を抑止する効果が期待出来る
- ヘリが使用するときの退避にも協力を得やすい
といったメリットが得られます。これがただのグラウンドだったりすればこうはいきません。特に、下の写真のように併せて看板も設置しておけばより確実です。

仕様詳細は必ず当該地を使用する運航者(消防防災航空隊等)へ相談する
施工する前に、必ず運航者に最低でも次の点について仕様を確認してください。施工後の修正は大変ですから、重要な分岐点の前に運航者へ相談することがとても重要です。
- 標識のサイズ
- 「H」の向き
- 塗色
- 離着陸地帯境界線の大きさ、太さ
標識は、実際にその場外を使う運航者に向けた「対空表示」=「メッセージ」なのです。
あわせて読みたい:
→場外離着陸場整備でありがちな失敗例5選-自治体担当者のための完全ガイド【実務編】
まとめ
- 場外の標識には法令基準がない
- 標識にはパイロット向けと地域向けの二つの大きな役割がある
- 視認性・塗料・向きに気をつけよう
- マルHは任意
- 最終的な仕様は必ず運航者と協議
この記事が自治体が場外整備を進める際のヒントとして、現場で迷わないための助けになれば幸いです。
▼最初から読む:
- 失敗しない「場外離着陸場」作り方手順—自治体担当者のための完全ガイド【基礎編】
- 場外離着陸場の基準とは-自治体担当者のための完全ガイド【技術編1】
- 場外離着陸場とヘリポートの違い-自治体担当者のための完全ガイド【知識編】
- 場外離着陸場整備でありがちな失敗例5選-自治体担当者のための完全ガイド【実務編】

















