はじめに

自治体の防災担当者の皆様、こんな悩みはありませんか?

  • 地域住民や議員から「ヘリの離着陸場を作ってほしい」と相談されたが、どんな手順で始めたら良いのか分からない
  • ネットで調べても専門的すぎて理解できない、かゆいところに手が届く情報が無い
  • ヘリポート、場外離着陸場、緊急離着陸場の違いってなんだろう
  • 誰に聞けば分かるの?

私は消防防災航空隊で数多くの「場外離着陸場」の整備をコンサルティングしてきました。その経験上、上に述べた悩みはこれまで多くの自治体の担当者の方々から実際に何度も相談を受けてきたものです。

この記事は、そんな悩みを持つ方に向けて、

「まず全体の方向性をつかむ」ための基礎ガイドです。

まずはこの「基礎」を理解していただき、より詳しい内容は本記事内で紹介している派生記事をごらんください。

本シリーズの構成】

この「基礎編」では全体の流れをつかんでいただきます。
そして詳細は以下の各記事で解説しているので、こちらもぜひご覧ください。

そもそも「場外離着陸場」とは?

一番最初に押さえるべきポイントがあります。それは、
場外離着陸場“などの言葉は、法律で定義された正式名称ではなく、通称に過ぎない
ということ。だから機関ごと・自治体ごと、次のように呼び方がバラバラなのです。

  • 場外離着陸場(多くの消防防災航空隊や自衛隊で使用)
  • 緊急離着陸場(多くの消防防災航空隊やドクターヘリで使用)
  • 臨時離着陸場(一部の消防防災航空隊で使用)
  • 臨時離発着場(警察航空隊で使用)
  • ランデブーポイント(ドクターヘリのみで使用)

これは「それぞれどう違うの?」と多くの担当者が迷うところです。でも実は呼び方が違っても意味はほぼ同じなのであまり気にする必要はありません。

ただ、本記事では最もよくある「場外離着陸場」、以下「場外」で統一して話を進めることにします。

あれ?上の呼び方の中に「ヘリポート」がないようだけど?

ヘリポート」は、厳密には航空法第38条に従って国土交通大臣の許可を得て設置された「飛行場の一種」です。本物の「ヘリポート」の設置手順は全く異なるので、本記事では取り扱いません。
詳しくはこちらをどうぞ:
場外離着陸場とヘリポートの違い-自治体担当者のための完全ガイド

そしてこれまた間違えやすいところですが、「舗装してマルHを描けば”ヘリポート”が完成する」わけではありません。場外とヘリポートは似て非なるもの。

【コラム「場外離着陸場」が正式名称ではない理由】

「場外離着陸場」という言葉は航空法に登場しません。それはなぜでしょう。

航空法第79条では、飛行場以外の場所での離着陸は原則として禁止されています。それは、もし飛行機やヘリコプターなどが飛行場以外の場所で好き勝手に離着陸すれば迷惑だし危ないからです。

そうして禁止されたことを行うには、国土交通大臣の特別な許可が必要です。法律は禁止されていることをわざわざ定義するようなことはしない、というわけです。

場外整備で押さえておく4つの手順とその順番

さて、もしあなたが自治体の防災担当者で、ある地域に場外を整備する場合、ちゃんとした手順があります。実はその順番がとても大切で、これを間違えると大きな手戻りが発生するかもしれません。

手戻りで済めば良いのですが、引き返せない失敗になることもあります。実際、私はいくつかの失敗を見てきました。

詳しくはこちらをご覧ください:
場外離着陸場整備でありがちな失敗例5選-自治体担当者のための完全ガイド【実務編】

失敗を避けるためには、次のような順番で行うことを強くおすすめします。

①地域のニーズを整理する

どんな事業でも同じですが、整備の目的を明確にしておかないと、途中で迷う原因になります。場外整備の目的としては次のようなものが想定されます:

  • 医療過疎地からのヘリによる傷病者救急搬送
  • 孤立集落対策(集落への緊急支援物資の搬入、集落からの傷病者搬出)
  • 空中消火を行う場合の拠点(消防防災ヘリへの消火資機材着脱)
  • 広域防災拠点の付帯施設(域内被災地への緊急支援物資搬送拠点)

“目的不明のまま進んだ計画”は、途中から何のために何をしているのかわからなくなって、労力と税金の無駄遣いになりかねません。

私は、場外整備自体が自己目的化しているケースも見てきました。例えば

地域防災力の強化と言ったら、やっぱりヘリが来てくれる体制を構築しなきゃ。それには場外だよね。

といった具合です。このように目的が曖昧なとき、私は決まって

それはそもそもヘリじゃないと達成できないことでしょうか?陸続きの場所でヘリは本当に必要でしょうか。
ヘリに、例えばどんなことを期待していますか?

と尋ねて、目的をもっと明確化してもらうように促したものです。

②消防本部に情報共有

消防本部は現場の救急・救助など地域消防・防災の主力ですから、当該地域を管轄する消防本部に構想を共有するとともにニーズを確認しておきましょう

場外を使用するのはヘリコプター運航者(消防防災航空隊やドクターヘリ)だけではありません。場外はヘリと地上部隊との接点です。つまり、消防署は離着陸の支援を行ったり、要救助者/患者を乗せる救急車を運行するという意味でユーザーの一員なのです。

消防本部のどの部署に相談すればいいの?

窓口は消防本部によってまちまちですが、多くの場合は警防課です。通信指令課や消防課で受け持っているケースもあります。

③消防防災航空隊(運航者)に相談

ここが最重要です

その土地で離着陸できるかどうかを判断できるのは、最終的には運航者だけです。

だから、予算要求の前に、そして用地取得折衝に入る前に、必ず運航者に相談して実査(現地で行う調査測量)をしてもらいます。

もし、運航者への事前相談なしに構想を固めてしまい、後戻りができなくなった段階で「使えない」と判明したら大変です。実際、そういう例をいくつか見てきました。

④どのような整備の仕方をするか協議しながら構想を固めていく

具体的にどんな形にするのかを考えるのは、消防との情報共有と、運航者への事前相談が終わってからです。

場外の離着陸可否は何で決まるの?

「事前に相談」は分かったけど、要するにどうだと着陸できて、どうだと着陸できないのさ。
大体でいいから、それがわからないとゼロベースで候補地を探さなくちゃいけないから大変だよ。

確かにそうですよね。大まかな条件としては概ね次のようなものがあります。

  • 離着陸帯が十分に広いこと
  • 進入・離脱経路が確保できること
  • 周辺に障害物(建物・送電線・立ち木)がないこと
  • 地面は起伏も勾配もないこと etc.
  • 救急車・消防車のアクセスができること

あのね、こんなんじゃ具体性がなくて全然わかんないよー
数字で教えて!例えば「十分に広い」っていうけど、実際何㎡必要なの?

ですよね。ごめんなさい。
この記事はあくまでもアウトラインを掴んでもらうことが目的なので、ここまでにしています。この先はとても細かい話になるので、詳しくはこちらで解説します:
場外離着陸場の基準とは-自治体担当者のための完全ガイド【技術編1】

ありがちな失敗の典型例

本当に役に立つ場外を整備するには、失敗例をあらかじめ見ておくことも重要です。

私がこれまでコンサルティングしてきた場外整備においては、次のような失敗例を見てきました。
同じ轍を踏まないよう、十分に留意していただければと思います。

  • 運航者や消防本部に相談なく進めてしまう(これは本当によくある)
  • グラウンドに整備する(一部分だけ舗装しても周囲の砂塵は避けられない)
  • 駐車場と兼用にしてしまう
  • 議員案件として計画だけ先行し、後戻りできなくなる

詳しくはこちらの記事で紹介しています:
場外離着陸場整備でありがちな失敗例5選-自治体担当者のための完全ガイド【実務編】

場外整備の本質は「目的」と「運用」にあります

場外整備は“ヘリの離着陸する場所を作ること”が最終目的ではありません。
その先に、どのようにヘリを運用していくのかという大きな構想があるはずです。

それを明確にし、地域のニーズと防災ヘリの能力を結びつけることに意識を向けてみてください。

おわりに

場外整備の仕事には、図面にも数値にも表れない重要な要素があります。
それは、地域の安全を願う担当者の想い・情熱です。

地域のニーズを聞き、関係機関と丁寧に話し合い、「本当に使える場外」を形にしたとき、
それは必ず町の安全を長く支える財産になります。

災害が起きたとき、ヘリが着陸し、傷病者が救われ、支援物資が届く。
あなたの仕事はその一連の流れの“起点”になるのです。

地域防災を支える仕事に華やかさはありませんが、人の命を助けるとても尊い仕事、あなたの子どもに誇れる仕事なのです。
防災部局は、どこもとても多忙なので日々の業務に追われてそういう観点は見失いがちですが、どうか誇りをもって取り組んでいただければと心から思います。

ABOUT ME
もげら47
自衛隊で大型輸送ヘリの機長として15年勤務。震災や林野火災など多数の災害派遣に出動。|その後、消防防災航空隊に転職し、消防防災ヘリの機長として10年以上にわたり山岳救助や空中消火活動に従事。|次いで2年間、地方自治体の防災課で防災関連の事務事業を推進するなど、防災一筋の人生。|現在はこうした経験を活かし、防災士ブロガーとして防災関連の情報を発信しています。|【保有資格】防災士・事業用操縦士(回転翼機+飛行機)・航空無線通信士・乙種第4類危険物取扱者・他|