場外離着陸場設置基準とは-自治体担当者のための完全ガイド【技術編1】

消防防災ヘリコプターのための場外離着陸場を整備するんだけど、具体的な設置基準ってあるの?
実は、場外離着陸場の「設置基準」なるものは存在しません。
代わりに運航者が申請する際に国交省が用いる「審査基準」が「設置基準」のように扱われているのが実態です。
なお、この記事は具体的な設置のための技術情報を解説しています。場外離着陸場を整備するには「手順」があるので、まずこちらの記事からごらんください:
→失敗しない「場外離着陸場」作り方手順—自治体担当者のための完全ガイド【基礎編】
はじめに-”場外設置基準”は存在しない??
自治体の防災担当者が場外離着陸場(以下「場外」)を整備するとなると、どういう形で整備するのか基準を知りたいと思いますよね。
しかし、先に述べたとおり、実は「設置基準」というものはありません。
それはなぜかと言うと、ヘリが飛行場以外の場所=「場外」で離着陸する場合、運航者自身がその許可を申請しなくてはならないからです。許可を取るのは設置管理者ではありません。この点はヘリポートとの大きな違いです。
詳しくはこちらをどうぞ:
→場外離着陸場とヘリポートの違い-自治体担当者のための完全ガイド【知識編】
ここは、多くの人々には馴染みがなく意外な話なので、場外整備の場面ではほぼ全員が勘違いしやすいところです。
つまり、場外に関しては、国交省航空局が運航者から提出された「場外離着陸についての申請」を審査するための「審査基準」だけが存在するのです。要するにこれは国交省航空局自身のための「事務処理基準」です。
→法第79条ただし書の規定による許可事務(場外離着陸場における離着陸の許可)
しかしながら、この「審査基準」が場外の設置基準のような扱いを受けているのが実態ですから、便宜上これを「設置基準」として整備しておけば、大きく間違うことはありません。
あわせて読みたい:
→場外離着陸場とヘリポートの違い-自治体担当者のための完全ガイド【知識編】
基準が面積だけで決まるわけではない理由とは
うん。分かった。
けど、要するにどれだけ面積があれば離着陸できるの?
これもよく聞かれる質問の一つですが、ヘリの離着陸可否は面積だけで決まるわけではありません。進入経路と離脱経路上、そしてその横に障害物が無いことなど他にもたくさんの条件があります。
それを理解するためには、ヘリの着陸と離陸の仕方を知る必要があります。
ヘリは、目的地上空で停止して、エレベーターのように垂直に着陸してくるわけではありません。
詳しい説明はここでは省きますが、こういう↓離着陸、実はとても効率が悪く、そして危険なので普通はやりません。(地形や障害物によっては、イラストほどではないにせよ、こんなふうに離着陸せざるを得ないケースもありますが、好き好んでやるパイロットはいません)

ではどうするかと言うと、ヘリが離着陸するときは飛行機と同じように風に向かって地面に対し斜めに進入・離脱します。

なので、離着陸地帯の面積だけではなく、進入経路と離脱経路上、そしてその横に障害物が無いことが求められることがおわかりいただけると思います。決して上空が開けていて、ヘリが駐機できるスペースさえあれば離着陸できる、というわけではないのです。
なお、離着陸地帯の必要面積は使用予定機体のサイズによる、と申し上げましたが、実務上はカタログ寸法に対し端数を切り上げて少し余裕を持った数字を使うことが多いです。例えば「全長17.1m→18mとみなして申請」といった具合です。機種もその余裕の取り方も自治体によって異なるため、必要面積は管轄する消防防災航空隊に確認するのが最も確実です。
場外離着陸の申請区分(基準)には3種類ある
場外離着陸の申請をするには次の3つの区分(基準)があり、それぞれ周辺状況、地形、用途によって使い分けます。
| 申請区分 | 一般 | 特殊地域 | 防災対応 |
| 概要 | 用途を選ばない最も汎用性の高いタイプ | 山間部など専用 | 防災用務専用 |
| 特徴 | 3区分の中で最も基準が厳しい | 基準が緩やかなので、地形による制約の多いところでも設置できる。 | 基準は緩やかだがその分運航者に対する要求が厳しい |
| 適用 | 目的を問わないため、用途が広い。本格的な整備をしたい自治体向け | 周辺に住宅や人工物がない僻地向け | 既存場所を活用したい自治体向け |
区分ごとの基準
実際はもっと詳細な条件や説明があるのですが、この記事はこれから場外を整備しようとしている自治体の防災担当者を対象としているので、わかりやすさを優先して大まかなイメージとして捉えていただけるよう大幅に簡略化して説明します。
区分1:一般場外
最も汎用性が高い一般場外の平面図、縦断面図及び横断面図を示します。
図では説明のため左から右への一方通行で描いていますが、離脱区域は進入区域を兼ねることができるため、周辺環境が許す限り進入と離脱は双方向(=反対向きにも進入離脱できるように)設定するのが通例です。

汎用性が高い分、周辺に対する要求は最も厳しくなっています。

「○○表面」と書かれた表面よりも上に障害物がないことが求められます。
なお、周辺環境によっては着陸経路と離陸経路は一直線上に設定できない場合もあるでしょう。そういう場合は下の図のように屈折して設定することも許容されますが、交差角は90度以上でなくてはなりません。

進入方向と離脱方向はどうやって決めるの?
周辺の地形や障害物、騒音を配慮すべきエリア、そしてその土地で吹きやすい風向を総合的に判断して決定されますが、そこは必ず消防防災航空隊など運航者に相談してください。
あわせて読みたい:
→場外離着陸場整備でありがちな失敗例5選-自治体担当者のための完全ガイド【実務編】
区分2:特殊地域場外
山岳地、農地その他離着陸経路下に人又は物件のない地域に設置する場合を想定しています。消防防災用務や航空機使用事業でしか用いられません。(=自家用機は対象外)

やはりこちらも「○○表面」を突き抜ける障害物があると申請できません。

区分3:防災対応
消防防災ヘリコプター専用の申請区分で、消防防災ヘリの業界では最もポピュラーです。
「仮想離着陸帯」といって、周辺障害物の状況によって必要に応じ最高15mまでの高さ=「空中」に離着陸帯(下図では破線で表示)を設定できるため、進入離脱表面が高いところに設定でき、そのおかげで周辺の障害物にとても「強い」のが特長です。


「仮想離着陸帯」って何?何か工事して作らなきゃならないの?
何も作る必要はありません。
これは着陸の際、パイロットが何も無い空中に離着陸帯がある「つもり」で、そこに向かって進入することを想定したものです。その後は垂直に降下し、現実の離着陸帯に接地します。離陸時はその逆。
周囲の障害物を回避するための工夫ですね。
こちらも、「一般場外」と同じく、進入離脱経路が一直線に設定できない場合は90度以上の交差角を確保したうえでこれを交差型にすることが許容されます。
離着陸地帯はどう作る?舗装とマルHは必須?
場外って、やっぱり舗装して離着陸地帯標識を描かなきゃいけないのかな?
ここは「基準」と「実務上の要求」に分けて考えましょう。
審査基準における舗装と離着陸地帯標識の扱い
審査基準では、離着陸地帯の表面状態については規定がありません。つまり自由です。実際、グラウンドや芝生広場など未舗装の場外は日本中にたくさんあります。
一方、標識についてはどうでしょうか。
審査基準にはヘリから明瞭に視認できる離着陸地帯の境界線を示す標識及び接地帯標識を設けるよう規定されていますが、「描くことが不可能又は著しく困難である場合は除く」とされています。
「描くことが不可能又は著しく困難」ってつまりどういう場合?
例えば、他人の土地で勝手に手を入れられないような場合ですね。
航空局からは、グラウンドや芝地なら離着陸の都度石灰を使ってでも表示するように求められたことがあります。
また、具体的な描き方については明確に規定されていませんし、それを規定したルール自体が国内に存在しません。
実務上の舗装と離着陸地帯標識の意義
舗装の必要性
基準では舗装は求められていませんが、ぬかるみや乾燥時の砂塵の問題を回避するため、実務上は舗装されていた方が好ましいです。特に、ダウンウォッシュによる砂塵は、時にパイロットの視界を奪い、また機材にも悪影響を及ぼし、更に周辺住民に対する迷惑にもなります。
あわせて読みたい:
→ダウンウォッシュとは?―ヘリコプターの下で起きている“見えない嵐”を解説
せっかく整備するのであれば、こうしたことも考慮に入れて舗装することをお勧めします。
舗装の強度はどうしたら良いの?例えばアスファルトの厚さとか?
これも本当によく聞かれる質問です。
が、消防防災航空隊は土木設計のことは答えられません。
航空隊には、使用するヘリの最大重量と降着装置の形(スキッドか車輪)を聞いて、それを設計業者に伝えてください。
離着陸地帯標識の必要性
恒久的な標識をする場合は舗装とセットになりますが、離着陸地帯標識はあった方が良いです。(もちろん、未舗装でも標識は描けますが、持続できません。)
一義的には、そこが場外離着陸場だということが上空から分かるようにするためのものなので、下の写真のようにできるだけ大きく、かつ明瞭に描くことが重要です。

あわせて読みたい:
→場外離着陸場のHマークはどう描く?|自治体担当者のための完全ガイド【技術編2】
まとめ
場外離着陸場には“設置基準”というものは存在せず、実際に整備の参考となるのは、運航者が申請する際に国交省が用いる「審査基準」です。この記事では、その審査基準を自治体担当者が理解しやすいように整理しました。
重要なポイントは次の4つです。
- 面積だけで離着陸の可否は決まらない
進入・離脱経路の障害物や風向など、周辺環境全体が判断材料になります。 - 申請区分は3種類あり、地域特性によって最適なものが異なる
・一般場外
・特殊地域場外
・防災対応(消防防災ヘリ専用) - 「仮想離着陸帯」を活用することで、障害物が多い地域でも整備が可能
防災対応区分では、空中に離着陸帯を仮想設定でき、周囲の障害物に強い構造が特徴です。 - 舗装や標識は“必須ではない”が、実務上は整備しておく方が望ましい
砂塵の抑制、視認性向上、無断使用の防止といった実益があります。
場外整備は「広場を整える」だけでなく、地域の特性や住民の安全も踏まえた総合的な取り組みです。本記事が、あなたの自治体の場外整備を進めるうえでの実務的な判断材料になれば幸いです。

















