場外離着陸場整備でありがちな失敗例5選-自治体担当者のための完全ガイド【実務編】

はじめに
これら↓の記事では、場外離着陸場の意義や設置の手順などを解説してきました。
- 失敗しない「場外離着陸場」作り方手順—自治体担当者のための完全ガイド【基礎編】
- 場外離着陸場設置基準とは-自治体担当者のための完全ガイド【技術編1】
- 場外離着陸場のHマークはどう描く?|自治体担当者のための完全ガイド【技術編2】
- 場外離着陸場とヘリポートの違い-自治体担当者のための完全ガイド【知識編】
この記事は、自治体の防災担当者が“よく陥りがちな落とし穴”を実例から学べる、実務特化ガイドです。
ここでは、私が消防防災航空隊に勤務していた際に実際に見てきた失敗例を5つ紹介します。全国的な統計をとったわけではありませんが、どれも日本各地で起こり得る典型的な事例です。
これから場外離着陸場(以下「場外」)を整備しようとしている自治体担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
失敗例1:航空隊に相談なく始める→初期の連携不足で誰も使わない場外完成
ある日、某自治体担当者から1本の電話。曰く「場外が完成したので見に来てください」とのこと。「そんな場所に場外を建設する話なんか聞いたこと無いのだけれど」と思いつつ電話を一旦切ったあと、周りの人々に経緯を尋ねても誰も何も知りません。当地を管轄する消防本部に電話で尋ねても「そんな話は聞いたことがない」とのこと。
改めて当該担当者によくよく聞いてみれば、航空隊への事前照会もないままに建設したとか。位置付けとしては市の水防センターに付随する場外とのことです。実はその担当者自身もその部署に異動してきたばかりで、背景や経緯、それに場外の設置目的を尋ねても要領を得ません。
一応、乞われるままに現場を訪れて確認しました。舗装もされ離着陸地帯標識(マルHなど)も描かれており立派なしつらえです。が、交通量の多い道路にピッタリと接しており、自転車や歩行者などへのダウンウォッシュによる危害が心配されます。
地元消防本部とも協議しましたが、「別にそこにヘリに来てもらわなくても困らないのだけど。町中だから孤立することも考えられないし。」ということでした。
目的も判然としないことと安全上の懸念から、その場外は「ただそこにあるだけ」で航空隊としては使用しないことになりました。もったいないことです。
失敗例2:航空隊に相談なく進める→大きな手戻りが発生
失敗例1と良く似ていますが、こちらは相談が初回だけで終わってしまった例です。
ある町の担当者から、場外を建設する構想について相談を受け、候補地を調査に行きました。それから何ヶ月か経ち、私たちもすっかり忘れた頃、その担当者氏から電話。
「例の場外が出来上がったので見に来てください」
とのこと。
果たして現場を見に行くと、離着陸地帯は確かにとても立派に完成しています。(下写真)

ところがよく見てみると、大きな問題があることがわかりました。
それは、構想当初は全面をアスファルトで舗装するはずだったのに、離着陸地帯の外側の一部が未舗装のままということ(下写真)。

写真を見て分かる通り、未舗装部分には大小さまざまな石があり、中にはこぶし大の石も見受けられます。これの何が問題かと言うと、場外の5m下には交通量の多い国道があるのです。このまま着陸すればダウンウォッシュで小石が吹き飛んで、下の国道を通行する車両にぶつかることが懸念されます。
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→ダウンウォッシュとは?―ヘリコプターの下で起きている“見えない嵐”を解説
このことは候補地実査の時から分かっていたことなので、全面舗装が必要であることはその時点で助言していました。未舗装の理由を尋ねると、何と「予算不足で全部舗装できなかった」とのこと。
しかしこのリスクは無視できないので、やむを得ず次年度予算で残余の部分を舗装してもらうこととし、それまでは使用しないこととなりました。
もちろん、「結節ごとに連絡してくださいね」と念押ししていたのですが、担当者も多忙の中で連絡が後回しになってしまったようです。舗装範囲を節約するなら、影響のないところを提案できたのに、と悔やまれました。
結局その後もう一度舗装工事を行い、無事に離着陸できるようになりましたが、町にとっては大きな手戻りになってしまいました。
場外整備の過程においては、予算要求、用地取得、工事発注契約などの後戻りできない分岐点に差し掛かるごとに相談・情報共有し続けることが重要です。
失敗例3:グラウンドや校庭のような砂地を整備→結局散水が必要
この事例も消防防災航空隊に事前の連絡などないままにいつの間にか場外が完成しており、「出来上がりました」という結果通知だけがあったものです。

舗装の主な目的は、乾燥時の砂塵や降雨後の泥濘などによる悪影響を排除することにあるのですが、離着陸地帯以外の場所にもダウンウォッシュは及ぶため、一部分だけを舗装するのではあまり効果が得られません。
え?じゃあグラウンド全部舗装しなきゃだめなの?
そうではなくて、このケースで言えば整備すべき場所をちゃんと選んだ方がトータルで効率的ではないですか、といいたいのです。
あと、実はもう一つちょっとした不具合があるのです。それは離着陸帯標識。「マルH」はヘリコプターの主な進入方向に正対させて描くのが通例です。

この場外の場合だと、地形や障害物の状況を考えると画面右からの進入が最もありうべきパターンなのですが、なぜか傾いて描かれています。

大きな問題ではないのですが、標準的な作り方というものがあるので、これも予め相談を受けていれば助言できたのに、と思いました。
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→場外離着陸場のHマークはどう描く?|自治体担当者のための完全ガイド【技術編】
失敗例4:議員案件として計画だけが先行→後戻りできなくなる
これはここまで紹介してきた失敗例の集大成と言えます。
ある日「場外を作ることになったので、現場を見に来てください」と言われ現場を見に行くと、そこは小学校の校庭。
現場で私は担当者に向かって
「校庭は砂塵が問題になるから止めたほうが良いですよ」
と助言したのですが、
担当者氏曰く
「もう予算要求も終わって、今年度の事業として進捗させることが決定している」
とのこと。
よくよく聞いてみると、次のような次第であることがわかりました:
その町の議員が、出身地の自治会からの要望を受け、同地内にある小学校校庭に場外を作ると言い出しました。その校庭、元々はドクターヘリ専用の緊急離着陸場(ランデブーポイント)として使用されてきた場所なのですが、議員は「孤立集落対策」として防災ヘリも離着陸できるようにしたいということのようです。
町役場の総務課は議員発案だから無視するわけにも行きません。役場の担当部署は議員のいうがままとにかく予算要求。議員発案だから予算は要求通り満額査定されます。けれどもどんな整備をしても、いくら接地帯だけ舗装したって結局は校庭だからダウンウォッシュによる砂塵が問題になります。
例えばこれ↓は別の学校ですが、乾燥した校庭に着陸すると大変なことになります。

こうした事情を話しても、町役場担当者は「議員さんの言うことだし、どうにかならないか」と泣きついてきます。
上司らとも協議した結果、仕方なく砂塵のリスクや不具合を飲み込んで、場外整備に付き合うこととしました。設計には積極的に助言をしたお陰で、完成した場外はたしかに立派なしつらえです(下写真)。

ただ、一部分だけ舗装をしても周辺の砂塵は避けられないので、運用上大きな制約になります。
議員発案であれば担当者レベルではどうしようもできないところもあるので、同情するほか無いのですが…。けれども議員は航空の専門家ではありません。本格的に話が進むよりももっと早くに相談してくれていれば、「航空隊意見」としてもっと良い提案が出来たのに、と悔やまれました。
失敗例5:溶融塗料で離着陸地帯標識を描く→剥離&飛散
これは写真を見るのが一番手っ取り早いです。


塗装が剥離しているのがおわかりでしょうか。
「溶融塗料」といって、道路の白線や横断歩道に使用される塗装で、2mmほどの厚みがあるのが特徴です。道路に使用される場合は反射材としてガラスビーズが混入される、あれです。
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離着陸地帯の舗装はコンクリートが使用される場合が多く、これと「溶融塗料」は相性が悪いのか施工が悪いのかわかりませんが、”足つき”が悪く数年のうちに剥がれ始めます。
どうしてコンクリート舗装が多いの?
それは、アスファルトだと夏場は熱のため柔らかくなって、ヘリコプターのスキッドがめり込んでしまったり、粘着してしまうことがあるからです。でもアスファルトが絶対だめということではありません。
特に、除雪をする場所ではグレーダーで簡単に剥がれてしまいます。このようにして剥がれた破片はダウンウォッシュで吹き飛んでいって、人に当たったり車に傷をつけたりする危険があります。
だから私が場外のコンサルティングをする場合は、離着陸地帯標識には液体のペイントをお勧めしています。
まとめ
ここで紹介した失敗例は、いずれも「もっと早い段階で運航者に相談していれば確実に防げたもの」ばかりです。場外離着陸場は、一度整備してしまうと後からの修正が難しく、失敗すれば自治体にとっても大きな損失となります。
だからこそ…
- 企画段階での相談
- 後戻りできない分岐点に差し掛かる前の情報共有と協議
- 小さな違和感でも必ず確認する姿勢
といったポイントが、失敗しない場外づくりの鍵になります。
現場を知る立場としては、せっかく整備するなら、災害時に本当に役立つ、地域の防災に貢献できる場外が増えて欲しいのです。
この記事が、あなたの自治体での場外整備に少しでも役立ち、“本当に使える場外”を作るための一助になれば幸いです。
最初から読む:
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