どうも!Mogera47です!
自衛隊で15年、防災航空隊で10年、自治体の防災課で2年、と災害対策一筋でやってきた防災士です。
地震などの災害への備えとして食料とか水を備蓄しておいた方が良いっていうけど、どれくらい備蓄しておけば良いんだろう?食料は「一食」って数えることができるけど、水は?
水の備蓄量は気になるところだね。
それに多すぎても邪魔だし、不足したら大変だし。
結論から言って、お勧めの水の備蓄量の目安はこんな感じです。
成人一人当たり12L
つまり2L入のPETボトル6本です。

多くの書籍や自治体では一人当たり9Lという量を推奨していますが、実はこれ、文字通りの必要最低限度です。状況にもよりますが、これでは不足する場合もあるかも知れません。
ここでは災害に備えるための「水の備蓄」について、その量や工夫、注意事項などを解説しますね。この記事を読めば、ご自分に合った備蓄量を把握できるようになるでしょう。
それではどうぞ!
なぜ水を備蓄しなくてはならないのか
そもそもの話ですが、まず水を備蓄する目的から確認しましょう。
それは、例えば大きな地震が発生するとしばしば断水するからです。
例えば最近のメジャーな震災では次のような期間、断水しました。
- 1995年 阪神・淡路大震災:約3ヶ月
- 2004年 新潟県中越地震:約1ヶ月間
- 2011年 東日本大震災:約5ヶ月間
- 2016年 熊本地震:約3ヶ月半間
- 2018年 北海道胆振東部地震:約1ヶ月
- 2024年 能登半島地震:3ヶ月以上
では、地震が発生するとなぜ断水するのでしょうか。
それは地下に埋設している水道管が破損したり損傷を受けるからです。また、津波で家が流されたり、土砂崩れによって家屋が押し流されたりして水道管の接続部分が壊れることもあります。

このような物理的な損傷を受けた水道管を全て補修するには大変な労力と時間がかかります。だから発災後の断水は簡単には解消せず長期に及ぶのです。
水がなくなったら給水車がきたり全国各地から支援物資が供給されるんじゃないの?
市役所が備蓄食料とか配ってくれるんじゃないの?
災害の備えはまず自助が基本です! 支援物資の供給は災害の規模や道路状況、地域などによってかなりばらつきがあるため、発災直後から支援物資や行政を当てにしてはいけません。それではいざというとき困ることになります。
水以外の備蓄については、こちらの記事で紹介しております。
備蓄量の考え方
成人一人、一日あたりの備蓄量
自治体や官公庁は、
- 飲用に1L
- 炊事+衛生用(うがい、手洗いなど)に2L
とし、一日あたり計3Lを推奨しています。筆者が勤務していた自治体でもそのように普及してきました。でもこの量はどのような考え方に基づくものなのでしょうか。
それは、1つには人が一日に失う水分量から考慮した摂取すべき水分量から来ています。
成人の場合、一日で尿+便で1.6L、呼吸や汗で0.9L、合計約2.5Lの水分が失われていると言われています。(国交省、厚労省)
一方、食事に含まれる水分と代謝によって1.3L(食事1L+代謝0.3L)を摂取します。
(出ていく分)2.5L-(入ってくる分)1.3L=1.2L
よって、差し引き1.2Lを飲用で補う必要があります。
体重や体質によって個人差があるでしょうが、1Lであれば、概ねこの1.2Lと整合し、管理しやすい量になりますね。
次に、これに炊事+衛生(手洗いや簡易な洗い物)などの使用を2L程度と想定します。 これらを合計すれば上記のように3Lとなります。
1日あたりの量はこれを最低ラインとし、家族構成や生活スタイルに合わせて備蓄量を調整してみると良いと思います。
ただ、ここでちょっと考慮事項があります。
酷暑時に水不足になれば命に関わります。断水に加え停電していればエアコンも扇風機も冷蔵庫も使えませんから、熱中症の危険度が飛躍的に高まります。自分と家族の命を守るには、こうした最悪の事態を想定しておくことが重要です。
特に、災害直後は様々な理由により医療サービスを受けるのが困難になるので、怪我・病気をしないよう、よりいっそう気を付けなくてはなりません。

よって、災害時はこうした状況に応じて炊事+衛生用を飲用に回すなど、バランスを取りながら計画的に消費していく工夫も必要です。
備蓄の対象となる期間
1日分の備蓄量は分かりました。
では、それを何日分準備すればよいのでしょう。つまりどれくらいの期間を備蓄水で過ごすと想定すべきでしょうか。
多くの自治体では「最低3日分」と案内しています。この期間は、多くの災害において、給水支援が始まるまで3日程度を要してきたという実績から考慮されたものです。
しかし筆者はさらに1日多く見積もって4日分をお勧めします。
その理由は最近の震災における給水支援開始までの期間と、今後警戒すべき巨大地震による影響を考慮するからです。
【最近の震災における給水支援開始までの期間の例】
- 東日本大震災(2011年)
地域によって異なるが、早い地域で1~2日、遅い地域では1週間以上 - 熊本地震(2016年)
被害の大きかった地域や交通の遮断された地域では3~4日 - 北海道胆振東部地震(2018年)
札幌市などの都市部では地震発生翌日から始まったが、被害の大きかった厚真町などでは2~3日 - 能登半島地震(2024年)
一部の地域では翌日には井戸が開放されたが、給水車による飲用水の供給が開始されたのは1週間後
断水翌日から給水が開始されたり、付近に井戸があるのはかなりラッキーな方だと思われるので、それを当てにせず次の点を考慮しておいた方が良いでしょう。
- 1週間以上かかる例がある
- 支援開始時期は予測できない
特に、(南海トラフ巨大地震のように)災害の規模や被災範囲が大きくなれば…
- 近傍の給水支援をする機関が無事とは限らない
- 支援対象地域が広域化するため更に支援が困難化する。
- 土砂崩れで道路が寸断すれば給水車がアクセスできなくなる。

こうしたことを考慮するとせめて標準+1日の4日分は自活できるようにしておいた方が良いと考えます。もちろん、水は多ければ多いほど安心ですが、重たくてかさばるからと備蓄に嫌気が差してしまっては本末転倒なので、この辺が現実的な線ではないでしょうか。
で、結局備蓄量は?
さて、以上を踏まえたうえで最低限備蓄しておくべき具体的な量を試算してみましょう。
一人1日必要量=3L
これが4日分なので、
3L×4日=12L
となります。4人家族の場合は
12L×4人=48L
になります。
いかがでしょうか。子供の場合は大人よりは消費量が少ないので少々割引が効くとしても中々の量だと思いませんか。
賃貸など収納が少ない場合、これだけの水を備蓄するのはスペース的にも負担になります。
しかしただ置いておくだけだと邪魔になるので、せっかくなら食器棚や洋服ダンスなどの下の方に置いて重心を下げるための重りとして使いましょう。転倒防止に役立ちます。
間違ってもめったに使わないからと棚の上の方に保管してはいけません。
災害用浄水器の利用
水の備蓄が難しい場合は、災害用浄水器という選択肢もあります。ただし性能はピンキリなので注意が必要です。
生活用水(雑用水)はどうする
ここまでは、飲用や炊事など口にいれることを前提とした水の備蓄量を確認してきました。
この中には生活用水(雑用水)は考慮されていません。
もちろん、生活用水は多ければ多いほど良いのですが、だからといって何十Lも何百Lも備蓄しておくのは非現実的です。そこで、断水に対しては、備蓄と節水の両輪で対処します。
備蓄の部
容器に貯めておく
これには決まった量はありません。
収納に余裕のある範囲で、余ったPETボトルやポリタンクの中をよく洗浄し、口いっぱいまで水道水を入れ、冷暗所に分散保管しておくと良いでしょう。
この方法であれば、水道水に含まれる塩素の殺菌作用により、常温で3日、冷蔵庫なら1週間程度は蛇口から出てきた水と同じように扱えます。ただし、直射日光や蛍光灯の紫外線には当てないように注意してください。期限が過ぎた水は雑用水として利用できますが、余りに長期間保管しておくと、ぬめりが出てきたりして不衛生なので定期的に入れ替える必要はあります。
なお、封入の前に煮沸してしまうと消毒の塩素が飛んでしまって、却って水の品質劣化の原因になります。
お風呂残り湯を捨てずに取っておく
新しく湯を張る直前まで残り湯を落とさずに取っておきます。
ただし、小さなお子さんがいるご家庭では、溺水事故の危険があるためお勧めしません。
また、入浴後の残り湯は翌朝にはすでに雑菌が多く繁殖しているため、トイレを流したり掃除に使う程度とし、手洗いや調理には使わない方が良いでしょう。
雨水貯水システム
賃貸や集合住宅でなければ、雨水貯水タンクを導入する方法があります。

これは自宅の雨樋から専用のタンクに雨水を貯めていくもので、容量も100~200Lと様々なサイズが販売されています。
普通にバケツに貯めておくだけだと、藻が繁殖し、異物が混入し、ボウフラが湧きますが、専用品では光を通さず虫が入り込めないようになっているので、こうした不具合を抑制できます。また、蛇口が装備されていて使いやすくする工夫がされています。
数万円というコストは掛かるし、定期的な清掃は必要ですが、平時でも庭の水やり、家の前の打ち水、洗車などにも使用できるため導入のメリットは大きいでしょう。
節水の部
入浴
ボディシートやドライシャンプーを事前に準備しておくとよいでしょう。
食器洗い
次のような工夫で節水しましょう。
- 食事は調理をしないで済むよう、アルファ化米、フリーズドライ、レトルト、缶詰等を予め準備
- 食器にラップやポリ袋を被せて使用
- 耐熱ポリ袋を使った湯せん調理
(ここで作ったお湯は捨てず適度に冷ました後、手や顔を洗うなど別の用途に使用) - 食器が汚れた場合はウェットティッシュで拭う
- まな板を使わずに済むよう、キッチンバサミ、ピーラー、スライサーを使用
洗濯
タオルハンカチや下着類など小物であれば、ジップ袋に洗剤と水を入れてもみ洗いします。
大物の洗濯は諦めましょう。臭いのは自分だけではありませんから、そこは非常事態と割り切ります。
トイレ問題
非常用トイレの準備
断水時はトイレ問題がすぐに顕在化します。入浴、洗濯や食事は我慢できてもトイレは我慢出来ない深刻な問題です。
いざというとき困らないよう、非常用トイレを必ず準備しておきましょう。
手作り非常用トイレはやめたほう良い理由
「市販品がなくてもレジ袋に新聞紙をちぎって入れたもので代用可能」と紹介するメディアや書籍も散見しますが、それは本当に緊急時のみの最後の手段と心得るべきです。
なぜなら、レジ袋では密封性が不十分だし、小さな穴が空くことが多いからです。だから中身が漏れてくることもあります。
そして最も重要なことは、災害時はごみ収集がされるとは限らないということです。そうなると、ごみ収集が再開されるまで自分達の排泄物を自宅内に蓄積していかなくてはなりません。それは大変な臭気を発します。
そのため、消臭剤と凝固剤、密封できる袋を備えた専用品は必須です。ここはケチらずちゃんとしたものを準備しましょう。
その他の方法
庭があるご家庭では、庭に穴を掘って用を足すという方法もあります。その場合はトイレテントを準備しておきまう。非常用トイレにせよ、トイレテントにせよ、いずれも災害が発生してから入手しようとしてももう手遅れです。
なお、災害時のトイレ問題については別記事(今後執筆予定)で詳しく解説します。
給水車から水をもらうときの注意点
さて次は、給水支援が開始された後の話です。

水の運び方
運良く給水車があなたの住む街にもやってきたとします。
そこであなたは、どうやって水をもらいに行きますか?水と言ったらポリタンク?
でもポリタンクを片手に給水車へ向かうのはちょっと待ってください。
ポリタンクだけ持っていくのはおすすめできない理由
ポリンタンクは大量の水を入れることができるので便利ですが、行きは軽くても満水にして重くなったポリンタンクを片手で持って運ぶのは結構な労力です。台車も自動車も、道路が平坦で障害物がないときしか使えません。
そこで次に述べる方法がおすすめです。
おすすめはリュックサックで運ぶこと
リュックサックに入るのなら、ポリンタンクごと入れて持ち運ぶと良いでしょう。
ポリタンクがなければ、2LのPETボトル、防災用給水バッグ、またはゴミ袋を二重にしてリュックサックに入れます。

リュックサックなら両手は塞がらないので、瓦礫の中を重いポリタンク片手で運ぶよりもずっと楽だし安全です。
PETボトルは備蓄水を消費すれば空きがたくさんできます。
給水バッグは百円均一でも入手できるし、小さく折り畳めるので平時でもじゃまになりません。
バケツを使う場合はこうしよう
もしバケツを利用する場合は、写真のようにゴミ袋を使うと運ぶときに水がこぼれません。ただし、たくさん持ち帰りたいからと大きなバケツを選んでしまうと帰りが大変ですから、体力と相談しながらくれぐれも加減しましょう。

持って帰ってきた水はこうして使おう
ポリタンクを準備するのであれば、蛇口が付いたものを選ぶと使いやすいです。

高層マンションにお住まいの方はここに注意!
最後に、高層マンションなどの集合住宅ならではの注意事項について述べたいと思います。
屋上貯水槽の水は断水後もしばらく使えてしまう
高層マンションなどの集合住宅では、高架水槽(屋上に設置される貯水槽)を使用していることがあるので、その水槽に水が残っていれば水は普通に使えますが、これは良し悪しです。まず、悪い点はすぐには断水に気づけないことです。

良い点は、断水後もしばらく水が使えることですが、これにより地震の後すぐお風呂やポリタンクに水を備蓄し始める人がいるので、これでは早いもの勝ちになってしまい公平性の観点からは問題があります。
なので、予め管理組合のマニュアルなどで非常時の水の使用方法について定めておくことが重要です。
自ら断水に気づくのは困難なので、大きな地震があったら断水したものとみなし、速やかに節水モードに切り替えつつ、情報収集に努めましょう。
その時まだお風呂に湯が残っていれば流さずに取っておいてください。ただし、小さなお子さんがいる家庭では溺水事故にくれぐれも注意しましょう。
停電でも断水!?
高架水槽がある建物では電動ポンプで貯水槽に揚水しています。停電でポンプが停止すればやがて高架水槽の水も使い果たし、その時点で「断水」になります。

停電になればエレベーターも停止します。こうなると備蓄水がなくなった後、外部から水を供給するにしても、給電が再開されるまでは自分の手足を使って水を運び上げなくてはならないので、高層階に住んでいる人にとっては大変な苦行になります。
実際、2011年の地震の際、ある高層マンションの16階に住んでいた筆者の知人は、停電+断水のダブルパンチのため、何度かポリタンクに入れた水を持って階段を登ったそうですが、最後は「これでは生活できない」と避難所に移ったそうです。水の問題がなくても高層階でエレベーターが使えないと大変ですね。
高齢だったり障がいがあったりすればなおのこと、生活する場所を良く考えないといけません。
まとめ
いかがでしょうか。ここでは、水の備蓄に的を絞って解説してきました。
筆者としては、成人1名あたり、4日分として12Lをお勧めします。
我が家は4人家族ですので、人数分の48Lを様々な場所に分散して備蓄しています。
もちろん、水だけではなく食料なども必要です。備蓄についてはこちらの記事を御覧ください。
また、災害時は断水以外にも停電、道路寸断など考慮すべきことは多いため、想像力を働かせて準備を整えておくことが重要です。想像力の重要性については、こちらの記事も参考になるのでご一読いただければと思います。