防災ホイッスルって、よく防災グッズとしてオススメって聞くから、やっぱり持ってた方が良いよね?
けれども「要らない」っていう人もいるみたいだし…実際どうなんだろう?

持っていて損はしないかもしれませんが、生き残る確率を劇的に向上させるかどうかは検討の余地ありです。

この記事では、防災ホイッスルの意義を「生き残る確率」という観点から考えてみます。

防災ホイッスルの目的

まず、災害時における「防災ホイッスル」の用途を考えてみましょう。それは、主として自分の居場所を周囲に知らせるための道具として紹介されるケースが多いです。大きな声を出し続けるのが難しい状況でも、比較的少ない力で大きな音を出せることから、

  • 地震で閉じ込められたとき
  • 助けを呼びたいとき

といった用途が想定されています。

最初から防災セットに含まれていたり、「最低限持っておきたい防災グッズ」として紹介されることも多い道具です。

最大の課題は家屋倒壊を前提としていること

厳しい言い方をするようですが、自宅で防災ホイッスルを使用することを想定しているのであれば、その時点で「自宅が瓦礫になって、その中に閉じ込められることを許容している」と言えるのではないでしょうか。

熊本地震で倒壊した家屋
平成28年 熊本地震で倒壊した家屋(写真出典:フリー写真無料写真の「キロクマ」より)

本当に生き残りたいと思うなら、倒壊の危険のあるようなところに住むのを止めた方がより本質的だと考えます。何しろ、家屋に押しつぶされるのは許容すべきリスクではないと思います。

だから家屋倒壊を前提とした準備をするのではなく、まずは住環境を整備することを徹底的に追求すべきではないでしょうか。

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ホイッスルで助かる前提条件を整理してみる

さて、ではホイッスルが「役に立つ」シーンが訪れる条件を改めて見てみましょう。
冷静に考えると、少なくとも次のような前提が必要になります:

  • 家屋倒壊や家具転倒の中で生き延びていること
  • 胸部圧迫などがなく、息を吹ける状態であること
  • ホイッスルが口の近くにあること(=手が自由に使えてホイッスルを口元にもっていける)

どれか一つでも欠けるとホイッスルを吹くタイミングは訪れません。

瓦礫の中でホイッスル
実はホイッスルが吹けるのはかなりラッキーな状況

生存確率は「確率の積」で決まる

災害時の生存は、運や気合いではなく、確率の問題です。

上に述べたような都合の良い状況が全部成立したときに、ようやくホイッスルの出番が回ってくるのです。

ホイッスル吹鳴に至る確率は、これら条件の発生確率の積です。

言い換えれば、どれかの条件が一つでも「ゼロ」になれば、ホイッスルの出番はなくなります。更に、ホイッスルが吹けたとしてもその後あなたが助かるには、

  1. 救助機関があなたの近くまで来ている
  2. 医療機関で正常な医療サービスを受けることができること

という2つの条件をクリアしなくてはなりません。家屋が倒壊するくらいの地震ですから、他の建物も倒壊して道を塞いでいるかもしれません。

実際、阪神・淡路大震災ではこのような道路封鎖によって救助機関の現場到着が著しく遅くなりました。

詳しくはこちらをどうぞ:
【防災本レビュー】『震度7 何が生死を分けたのか』“知ったつもり”の地震対策に警鐘を鳴らす渾身の一冊

また、大災害ですぐに怪我を治療してもらえるとは限りません。災害時の怪我は平時に比べ、より重大な意味を持ちます:
災害時の怪我は想像以上に深刻──自分も周囲も守る「怪我をしない備え」が最も大切

真剣にホイッスルを当てにするなら「常時携行」が必要

それでも、あったほうが多少は確率は上がるのでは?

確かに、そう考えるのは自然です。ただし、ホイッスルで本気で生存確率を上げたいのであれば、文字通り肌身離さず常に身につけていないと理屈に合いませんよね

地震はいつ発生するかわかりませんから、入浴中や睡眠中など無防備になりやすい時間帯ほど入念に準備しておくことが肝心です。

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そうだ!家中のあちこちに置いておけばいいんじゃないかな!

うーん…家屋倒壊を前提としているのでしょう?
であれば、果たして瓦礫の中で首尾よくホイッスルが見つかるでしょうか。夜間で停電すれば、更に難しいでしょうね。

すると「ただ閉じ込められただけで、ある程度動き回れるならホイッスルに手が届く場合もあるじゃないか」という疑問も出てきそうですが、それだけ動ける状況ならほぼ助かっているとも言え、すでにかなり幸運なケースと言えます。

その場合緊急性はぐっと下がっているため、ホイッスルの出番はあるのでしょうか。

外出時に持ち歩くという考え方

じゃあ外出中はどう?
防災ポーチに入れて携行したり、スマホにストラップとして付ける工夫を勧める人もいるよ!

理屈としては正しく、「多少は」生存確率を上げるかもしれません。
ただ、もともと屋外は地震による致命的なリスクが比較的低いですよね。なぜかと言うと…

  • 建物に押し潰されにくい
  • 周囲に人がいる可能性が高い

つまり、リスクが低めの時間帯で、少しだけ生存確率を上げているに過ぎません。

野外での生存確率を大きく左右する要素とは言いにくいのが現実です。
一方、外出先でもなお「地震で倒壊するおそれのある建物内」を想定するのであれば、結局「瓦礫の中で生き残る確率」が課題になってきます。

それでもホイッスルに意味がある場面

えええ?じゃあホイッスルって不要なの?

必ずしもそうではありません。
避難所では女性や子供にとっては「防犯」で役に立つかもしれません。

  • 夜間にトイレへ行くとき
  • 一人になる場面
  • 不審な接近を受けたとき
ホイッスルは性被害など発生する恐れのある避難所では利用価値がある。
ホイッスルは性被害など発生する恐れのある避難所では利用価値がある。

このように、防災というよりは「防犯」の観点では意義があるともいえます。

ただ、ホイッスルがなくても、大声で叫ぶことはできるため、必須かといわれるとちょっと…。
ホイッスルよりもむしろ「きゃー助けて!」という悲鳴の方が切迫感があり、即座に大勢の人が集まってくるのではないでしょうか。

多くの人が見落としている優先順位

先に結論を述べていますが、改めて一番大切なポイントです。

本気で「生き残る確率」を上げたいなら、ホイッスルに期待する前に、住環境を整えることのほうがはるかに重要です。

  • 耐震性の高い住宅に住む
  • 家具を固定する
  • 寝室を安全にする

これらは、生存確率を桁違いに向上する要素です。

小さな確率に期待するよりも、まずは生存確率をゼロにしてしまうような要因を潰す。
防災では、この順番がとても重要です。あなたと、守るべき大切な人の命がかかっているのです。

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まとめ

防災ホイッスルを大事に思う気持ちは否定しません。
持っていれば、(もしかしたら)状況によっては役に立つこともあるかもしれないからです。ただし、

  • 「これさえあれば助かる」
  • 「とりあえず持っているから大丈夫」

と期待しすぎると、もっと確実に生存率を上げられる対策が後回しになってしまいます。

防災ホイッスルは、奇跡を起こす道具ではありません。奇跡的に条件がそろったときに、発見される確率をほんの少し上げる道具です。それよりも先に考えるべきなのは、地震に強い住環境と家具の転倒防止などの日常の備え

真剣に生き残りたいなら、小さな安心に期待する前に、生死を左右する土台から整えることが、何より大事です。

ABOUT ME
もげら47
自衛隊で大型輸送ヘリの機長として15年勤務。震災や林野火災など多数の災害派遣に出動。|その後、消防防災航空隊に転職し、消防防災ヘリの機長として10年以上にわたり山岳救助や空中消火活動に従事。|次いで2年間、地方自治体の防災課で防災関連の事務事業を推進するなど、防災一筋の人生。|現在はこうした経験を活かし、防災士ブロガーとして防災関連の情報を発信しています。|【保有資格】防災士・事業用操縦士(回転翼機+飛行機)・航空無線通信士・乙種第4類危険物取扱者・他|