南海トラフ地震の発生が確実視されている中、徳島県はその影響が大きい地域の一つとされています。
特に“激しい揺れ”と“津波”による被害が想定されており、いざというときに命を守るためには、事前の準備と行動計画が欠かせません。
この記事では徳島県に住む人々が来たるべき海トラフ地震から「どうやって命を守るか」という視点で、防災士の立場からお伝えします。
徳島県はなぜ南海トラフ地震で危険なのか?
徳島県は、南海トラフ沿いに位置し、1946年の南海地震でも、死者及び行方不明202人、住家流出413戸など大きな被害を受けました。
令和7年3月に発表された政府の想定では、徳島市から阿南市にかけての海沿いを中心として震度7の激しい揺れが予想されており、最悪の場合死者は3.1万人と想定されています。
出典:
1. 南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について 【定量的な被害量】令和7年3月
2. 南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について 【定量的な被害量(都府県別の被害)】令和7年3月
さらに阿南市などでは5~10mを超える津波が到達する可能性があるとされています。
→防災・減災マップ(徳島県)
なので、まずはこの激しい揺れと津波という二つの攻撃を生き延びなくてはなりません。
そして注意すべきは、津波到達時間が短いこと。
県南部の海陽町や阿南市など場所によっては、地震発生から5~20分で津波が押し寄せるとされており、揺れを感じた直後の避難行動が生死を分けます。
出典:南海トラフ巨大地震モデル・被害想定手法検討会報告書 津波到達時間 令和7年3月
あなたの住む地域は大丈夫?──公式ハザードマップの読み解き方
まず最初にやってほしいことは、自宅や勤務先の予想最大震度と想定される津波の深さの確認です。
徳島県では、県内の各種災害のリスクを視覚で表示するための「防災・減災マップ」を公表しています。ここからあなたの地域のリスクを確認してみてください。(画像クリックでリンク先を表示)

震度分布
上のスクリーンショットでは津波浸水想定を表示していますが、画面左側の「レイヤー切替」で震度分布をクリックすると地域ごとに想定される最大震度が色分けで表示されます (画像クリックでリンク先を表示)。

津波到達時間
残念ながら、徳島県の防災・減災マップは津波到達時間を表示させる機能は備えていません。
なので、ここでは代わりに先に紹介した南海トラフ巨大地震モデル・被害想定手法検討会報告書 津波到達時間 令和7年3月から到達時間分布図をごらんいただくこととします。

想定される震源域の中心に近い南部地域ほど到達時間は早く、例えば海陽町では地震発生から5~10分で第一波が訪れることがわかります。
なお、南海トラフ地震は震源域が長大で、地震規模や発生パターンが多様なため、津波到達時間だけではなく想定される震度や津波の浸水深さも多様であることに注意が必要です。
揺れのあと、逃げるために──まずは“揺れ”を生き延びる3つの備え
さて、ここまではご自宅周辺の地震被害と津波からの避難経路の確認の仕方を紹介してきました。
津波が怖いのは間違いありませんが、まず何よりも最初にやってくる地震の揺れを生き延びなくてはなりません。建物が倒壊したり、家具の下敷きになってしまっては、逃げることすらできないからです。
ここでは、地震対策としてとても重要で基本的な3つの備えをご紹介します。
その①:家の耐震性を見直そう
- 築年数が古い木造住宅は、震度6以上で倒壊リスクが高まります。
- 自治体の「無料耐震診断」や補助制度もチェック。
詳しくはこちら:
→家の倒壊がいちばん怖い。地震への備えは“住まいの安全性”から始まる
その②:家具の固定は必須!
倒れてきた家具の下敷きになって怪我をすると、その後の避難にも影響が出ます。また、タンスや冷蔵庫が倒れて通路をふさぐと、避難経路が閉ざされます。
なお、令和3年度に徳島県で実施された地震・津波に関する意識調査によると、「家具を全部または大部分固定している」と回答した人は全体のわずか7.2%でした。一方で、南海トラフ巨大地震の発生する可能性については、48%の人々が「明日起きても不思議はないと思っている」と考えています。
家具固定は地震対策の定番中の定番ですが、実行する人は少なく、地震による被害が減らない原因の一つになっています。

地震が来るのは分かっとるのだけんど、家具固定となるとなかなかできんのやわな…
その気持は良く分かります。
全部いっぺんにやろうとすると大変ですから、まずは最初の小さな一歩を踏み出してみましょう。そうすれば後は勢いがついていくものです。
家具固定などの対策になかなか踏み出せないもう一つの原因は、災害を「自分ごと化」していないことかもしれません。
こちらの記事で、家具固定の重要性をご案内しています。ご一読いただければ、いても立ってもいられなくなると思うので、ぜひ読んでみてください:
→やらないと絶対後悔!だけどやれば効果絶大-地震対策の定番「家具の転倒防止」
その③:寝室は“最優先”で安全に
地震は深夜に発生することもあります。そんな深夜、眠っている間は大変無防備です。だからまずは寝室防災で安全を確保しましょう。
詳しくはこちら:
→実は寝室がいちばん危ない!? 地震対策は“寝室防災”から始めよう
津波からの避難
津波に対しては、「地震の揺れを感じた場合」や「大津波警報が発令された場合」は、一刻も早く、より高い安全な場所へ避難することがとても重要です。そのため、海岸に面した町に居住している場合、あるいは仕事や旅行などで訪れている場合には、「今津波が来るとしたらどこへ避難するか」を常に意識するように心がけましょう。
なお、津波から逃げ延びるには「津波避難の3原則」を覚えておくと良いかも知れません。
「津波避難の3原則」というのは、群馬大学大学院の片田敏孝教授が提唱し、東日本大震災では岩手県釜石市の小中学生らが見事に津波から逃げ切ったという「釜石の奇跡」を生み出した、津波避難のための教えです:
- 想定にとらわれるな
- 最善を尽くせ
- 率先避難者たれ
詳しくはこちらの記事をごらんください。

で、具体的にどこへ避難すればいいの?
お住まいの市町村では津波を始めとする「避難場所」を設定しているので、それらを確認しておきましょう。
先にご案内した「徳島県の防災・減災マップ」で、左側のレイヤーから「緊急避難場所」の内、「津波」に✓を入れると津波に対応した指定緊急避難場所が地図上に表示されるので、ご自宅の付近の避難場所を確認しておきましょう。

ただ、この「防災・減災マップ」は必ずしも最新の状況を表しているとは限らないことと、なぜか阿南市だけ避難場所が表示されていないため、最新かつ正確な情報は市町村のHPから確認しましょう。
実際、情報の鮮度については「ご利用上の注意」(防災・減災マップを開いた時に最初に表示される)にも書かれています。

念のため、県内沿岸部に位置する市町の津波に対する避難場所情報を記載したサイトを紹介しておきます:
- 鳴門市津波避難マップ
- 松茂町津波防災ハザードマップ
- 北島町津波ハザードマップ
- 藍住町WEB版ハザードマップ
- 徳島市地震・津波防災マップ
- 小松島市津波ハザードマップ
- 阿南市津波防災マップ
- 美波町津波避難マップ
- 牟岐町津波避難マップ
- 海陽町津波ハザードマップ
避難後に生き延びる──最低限の備えと心づもり
地震の揺れと津波から生き残った後のことも考えておかなくてはなりません。
食料や飲料水などの自宅備蓄
断水したり食料品の調達ができなくなることも想定すると、自宅には相応の備蓄をしておく必要があります。
- 水、非常食、非常用トイレ
- カセットコンロとガス缶
- 懐中電灯や乾電池、衛生用品など

あわせて読みたい:
→その備蓄で大丈夫?今すぐ始めるべき正しい災害備蓄の方法
家族での取り決め
仕事や学校に行っている間など外出中に発災すれば、家族が離れ離れで避難することは十分ありえます。実際、平成23年東日本大震災では平日の日中に発生しています。
インターネットが使用できる限りは、スマホや携帯電話を持っている人同士であれば連絡も取れますが、子どもはそうは行きません。非常時の集合場所と連絡手段をあらかじめ話し合っておきましょう。
また、ネットが使えない状況で遠隔地に住む親類・知人と連絡を取りたい場合などは災害伝言ダイヤルという方法があります。

あわせて読みたい:
→災害時の連絡手段、どう備える?本当に役立つ通信方法とは
徳島県のリスクは確かに高い。でも、備えることで命は守れる
南海トラフ地震は確実に起こるとされています。
でも、事前に知り、考え、備えておけば、“命を守る”ことはできるのです。
防災の第一歩は、「知ること」そして「行動すること」。
この記事がそのきっかけになれば幸いです。