日常の備え

南海トラフ地震に備える【三重県編】──津波と揺れに“どう備えるか”を徹底解説

南海トラフ地震の発生が確実視されている中、三重県はその影響が大きい地域の一つとされています。
特に“激しい揺れ”と“津波”による被害が想定されており、いざというときに命を守るためには、事前の準備と行動計画が欠かせません。

この記事では三重県に住む人々が来たるべき海トラフ地震から「どうやって命を守るか」という視点で、防災士の立場からお伝えします。

三重県はなぜ南海トラフ地震で危険なのか?

三重県は、南海トラフ沿いに位置し、1944年の東南海地震でも、死者・行方不明者406人、負傷者607人、住家全壊3,776軒など甚大な被害を受けました。(出典:内閣府防災情報のページ 1944東南海地震・1945三河地震報告書より)

令和7年3月に発表された政府の想定では、最悪の場合、北部から南部にかけて海沿いの広い範囲で震度6強、松阪市や伊勢市では震度7の激しい揺れが発生し、県内における死者は2.9万人と想定されています。

出典:
1. 南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について 【定量的な被害量】令和7年3月
2. 南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について 【定量的な被害量(都府県別の被害)】令和7年3月

さらに鳥羽市、志摩市及び南伊勢町など震源に近い場所では20mを超える津波が到達する可能性があるとされています。
三重県津波浸水想定について(H27.3.31)

なので、まずはこの激しい揺れと津波という二つの攻撃を生き延びなくてはなりません。

そして注意すべきは、津波到達時間が短いこと。
尾鷲市や熊野市など県南部では、地震発生から数分で津波が押し寄せるとされており、揺れを感じた直後の避難行動が生死を分けます。

あなたの住む地域は大丈夫?─公式資料からリスクを把握する

まず最初にやってほしいことは、自宅や勤務先の予想最大震度想定される津波の深さの確認です。以下に、南海トラフ地震において想定されるリスクをそれぞれ紹介します。

震度分布

県内の各地で予想される震度については、三重県地震被害想定調査結果の概要について(H26.3)が参考になります。ただしこれは想定し得る理論上最大クラスの地震の場合です。

三重県における理論上最大クラスの南海トラフ地震による強震動予測結果

震度分布だけではなく、この後紹介する想定津波浸水深など全てに言えることですが、南海トラフを震源とした地震の発生態様はとても多様で、震源や地震の規模によって特定の地域の震度などは大きく変動します。

したがって、官公庁や自治体が作成する公式な被害想定ではいわゆる「想定される最悪のケース」を元にすることになります。だから上で紹介した震度分布もそうした「最大クラス」であることにご留意ください。

南海トラフ沿いで発生するその「最大クラス」ってどれくらいの頻度で発生することを想定してるの?

千年に一度あるいはそれよりもっと発生頻度が低いものと想定しています。(H25.5.28公表 南海トラフ巨大地震対策について(最終報告))

え?そんなものなの?
じゃあ「最大クラス」はまず発生しないと思って…

いやいや、そうとも言えないんですよ。
東北地方太平洋沖型の超巨大地震は、過去約3,000年で5回起きており、平均すると 約550〜600年に一度発生しています。
一方、南海トラフ沿いではM8級地震が100〜200年に一度の周期で繰り返し発生してきました
頻度が小さい東北沖型でも実際に2011年に起きたように、「確率が低い=起きない」ではありません。だからこそ、正しく恐れ、備えを具体化しましょう。

津波の深さ

想定される津波の深さについては、三重県公式HPの津波防災地域づくりに関する法律に基づく津波浸水想定について(H27.3.31)からご自宅周辺の津波の深さをご確認ください。

ただし、この↑想定図は地域ごとにファイルが分かれているので、津波の深さについて市町村をまたぎながら海岸線を継ぎ目なく横断的に眺めていきたい場合は、重ねるハザードマップが便利です。

津波の深さを横断的に眺めていく場合は重ねるハザードマップが便利

津波到達時間

最悪のケースにおける県内の海沿いの地域ごとに想定される最短津波到達時間は次のとおりで、震源に近い県南部では地震発生から4分(!)と非常に早く津波が訪れるため、避難の遅れが生死を分けます。

三重県内各地で予想される津波到達時間(最悪のケース)
出典:三重県津波浸水想定(H27.3.31)より再構成

こうした地域では、地震を感じた時にテレビやネットで震度や震源、ましてや津波予想を調べている時間はありません。地震発生、即避難です。

揺れのあと、逃げるために──まずは“揺れ”を生き延びる3つの備え

さて、ここまではご自宅周辺の地震被害と津波からの避難経路の確認の仕方を紹介してきました。

津波が怖いのは間違いありませんが、まず何よりも最初にやってくる地震の揺れを生き延びなくてはなりません。建物が倒壊したり、家具の下敷きになってしまっては、逃げることすらできないからです。

ここでは、地震対策としてとても重要で基本的な3つの備えをご紹介します。

その①:家の耐震性を見直そう

  • 築年数が古い木造住宅は、震度6以上で倒壊リスクが高まります。
  • 自治体の「無料耐震診断」や補助制度もチェック。

詳しくはこちら:
家の倒壊がいちばん怖い。地震への備えは“住まいの安全性”から始まる

その②:家具の固定は必須!

倒れてきた家具の下敷きになって怪我をすると、その後の避難にも影響が出ます。また、タンスや冷蔵庫が倒れて通路をふさぐと、避難経路が閉ざされます。

なお、令和6年度に三重県で実施された「防災に関する県民意識調査」によると、(有効回答者数2,766人の内)家具固定をしていると答えた人は26.5%とのことでした。残りの約75%は家具固定をしていないことになります。

家具固定は地震対策の定番中の定番ですが、このように実行する人は少なく、地震による被害が減らない原因の一つになっています。

地震が来るのは分かってはいるけど、家具固定ってなかなかハードルが高く感じて…

その気持は良く分かります。
でも確かに全部いっぺんにやろうとすると大変ですから、まずは最初の小さな一歩を踏み出してみましょう。そうすれば後は勢いがついていくものです。

「やっても無駄」と諦めてしまっている人もいるようですが、実際は全然そんなことはなく、正しく行えば効果は絶大です。

家具固定などの対策になかなか踏み出せないもう一つの原因は、災害を「自分ごと化」していないことかもしれません

こちらの記事で、家具固定の重要性をご案内しています。ご一読いただければ、いても立ってもいられなくなると思うので、ぜひ読んでみてください:
やらないと絶対後悔!だけどやれば効果絶大-地震対策の定番「家具の転倒防止」

その③:寝室は“最優先”で安全に

先の意識調査でも、家庭での防災対策として「寝室に転倒の危険性のある家具類等を置かないようにしている」と回答した人は26.2%でした。

地震は深夜に発生することもあります。そんな深夜、眠っている間は大変無防備です。だからまずは寝室防災で安全を確保しましょう。

詳しくはこちら:
実は寝室がいちばん危ない!? 地震対策は“寝室防災”から始めよう

津波からの避難

原則①:地震を感じたら即避難

津波に対しては、「地震の揺れを感じた場合」や「大津波警報が発令された場合」は、一刻も早く、より高い安全な場所へ避難することがとても重要です。そのため、海岸に面した町に居住している場合、あるいは仕事や旅行などで訪れている場合には、「今津波が来るとしたらどこへ避難するか」を常に意識するように心がけましょう。

なお、津波から逃げ延びるには「津波避難の3原則」を覚えておくと良いかも知れません。

津波避難の3原則」というのは、群馬大学大学院の片田敏孝教授が提唱し、東日本大震災では岩手県釜石市の小中学生らが見事に津波から逃げ切ったという「釜石の奇跡」を生み出した、津波避難のための教えです:

  1. 想定にとらわれるな
  2. 最善を尽くせ
  3. 率先避難者たれ
津波避難標識の例

詳しくはこちらの記事をごらんください。

津波避難の三原則とは?釜石の教訓に学ぶ命を守る行動

で、具体的にどこへ避難すればいいの?

お住まいの市町村では津波を始めとする「緊急避難場所」を設定しているので、それらを確認しておきましょう。

三重県には県内すべての緊急避難場所を網羅した電子地図は用意されていないようなので(令和7年9月現在)、お住まいの市町村のハザードマップをご確認いただくのが良いでしょう。県内市町の避難所情報、防災マップ一覧はこちらです:
→防災みえ.jp>くらしの防災>避難所・防災マップ>県内市町の避難所情報、防災マップ一覧

あわせて読みたい:
ハザードマップの正しい使い方|防災士が教える7つの種類と活用法

避難後に生き延びる──最低限の備えと心づもり

地震の揺れと津波から生き残った後のことも考えておかなくてはなりません。

食料や飲料水などの自宅備蓄

断水したり食料品の調達ができなくなることも想定すると、自宅には相応の備蓄をしておく必要があります。

  • 水、非常食、非常用トイレ
  • カセットコンロとガス缶
  • 懐中電灯や乾電池、衛生用品など
非常食の例

あわせて読みたい:
その備蓄で大丈夫?今すぐ始めるべき正しい災害備蓄の方法

家族での取り決め

仕事や学校に行っている間など外出中に発災すれば、家族が離れ離れで避難することは十分ありえます。実際、平成23年東日本大震災では平日(金曜日)の日中に発生しています。

インターネットが使用できる限りは、スマホや携帯電話を持っている人同士であれば連絡も取れますが、子どもはそうは行きません。非常時の集合場所と連絡手段をあらかじめ話し合っておきましょう。

また、ネットが使えない状況で遠隔地に住む親類・知人と連絡を取りたい場合などは災害伝言ダイヤルという方法があります。

災害伝言ダイヤル

あわせて読みたい:
災害時の連絡手段、どう備える?本当に役立つ通信方法とは

三重県のリスクは確かに高い。でも、備えることで命は守れる

南海トラフ地震は確実に起こるとされています。
でも、事前に知り、考え、備えておけば、“命を守る”ことはできるのです。

防災の第一歩は、「知ること」そして「行動すること」。
この記事がそのきっかけになれば幸いです。

ABOUT ME
もげら47
自衛隊で大型輸送ヘリの機長として15年勤務。震災や林野火災など多数の災害派遣に出動。|その後、消防防災航空隊に転職し、消防防災ヘリの機長として10年以上にわたり山岳救助や空中消火活動に従事。|次いで2年間、地方自治体の防災課で防災関連の事務事業を推進するなど、防災一筋の人生。|現在はこうした経験を活かし、防災士ブロガーとして防災関連の情報を発信しています。|【保有資格】防災士・事業用操縦士(回転翼機+飛行機)・航空無線通信士・乙種第4類危険物取扱者・他| ■記事に登場する「わからんこ」や「ちびもげら」って誰? ■キャラクター紹介はこちら