日頃の備え

避難所の“クレクレ問題”にどう向き合う?備蓄を守る工夫と“対等な助け合い”の知恵

どうも!Mogera47です!
自衛隊で15年、防災航空隊で10年、自治体の防災課で2年、と災害対策一筋でやってきた防災士です。

※本記事は広告を含みます。

はじめに:避難所で実際に起こりうる「クレクレ問題」とは?

避難所には様々な人が集まってきます。ちゃんと普段から備えておいた備蓄品を持ってきた人、避難所に来れば行政が何でも準備してくれるからと手ぶらで来る人、やむを得ず着の身着のままで家を飛び出してきた人…。

こういう状況では備蓄品を持っている人がそうでない人々に「ひとつだけお願い!」「助け合いでしょ?」とねだられることがあります。十分に備えていた人ほど目をつけられやすく、「あげないと感じ悪いかな…」「配ったほうがいいのか…」と気持ちをすり減らしてしまうことも。

この問題、ネットの世界では「避難所のクレクレ問題」としてちょっとした話題になっています。

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「クレクレ問題」の実例

以下は避難所の生活経験のある知人らが経験し、あるいは見聞きした話です:

  • 避難所で食料配給が始まる前、自分が準備していた備蓄食料(チョコレートや羊羹など)をねだられた。やむを得ず1人に分けると他の人々も集まってきたため、これを断ったところトラブルになった。
  • ある避難者が持ってきていた毛布をみて、「正義マン」が「お年寄りがいるからあげるべき」と持っていってしまった。
  • 若い夫婦が自分たちの子供用に準備していた粉ミルクを分けるよう依頼されたが、「自分の子の最小限しかない」と断ると周りの人たちから助け合いの重要性を盾に一斉責め立てられた。
  • 避難所に到着するや否や「持ってきた備蓄品を供出してください、全員で分け合います」と自分用の備蓄品を没収された。

ただし、避難所は“クレクレ族”の巣窟ではない

まず大前提としてお伝えしたいのは、すべての避難所で「クレクレ問題」が発生しているわけではないということです。上に述べた事例は一つの例であって、必ずこうなるという意味ではありません。


避難所の雰囲気や運営の質は、地域特性、自治体の体制、そして災害規模や状況によって千差万別。これまでに発生した数々の災害では、その都度無数の避難所が開設されてきましたが、「クレクレ問題」のような「キャッチー」な話は余計に残りやすいし拡散されやすい特性があります。

一方で比較的平穏、というか淡々と運営されていた避難所もあったはずです。

この記事で扱うのは、あくまでも「一部の避難所で起こりうるトラブルへの備え方」。
どれくらいの確率でそうしたクレクレ問題に遭遇するかは全くの未知数になるので、本記事は不安を煽るためではなく、自分の備えを守りながらも、他人と信頼関係を築くためのヒントとして読んでいただければ幸いです。

「助け合い」と「一方的な提供」は違う

本来の“助け合い”とは、互いの力を出し合って支え合うこと。
片方が一方的に与え続け、もう一方が受け取り続けるだけの関係は、持続不可能ですし、「助け合い」とは言いません。

もちろん、助けを求められたときに「いやだ」と冷たく拒むのではなく、適切な距離感や条件を設けることで、互いの尊厳を守る工夫が必要ではないでしょうか。

トラブルを回避するために

元々ストレスの溜まりやすい非常時だからこそ、平時よりもいっそうトラブルは避けたいもの。

非常時だからこそ、平時よりもトラブルは避けたい

そこで、クレクレ問題を回避するというよりは、無用なトラブルを回避するための実践的な工夫をいくつか提案します。

備蓄品は見せびらかさない

プライバシー確保が困難な避難所ですから難しいかも知れませんが、できる限り自分の持ち物は見せないようにすることが、防犯上の観点からも望ましいでしょう。

食料品だけではなく、モバイルバッテリートイレットペーパーなどは避難所で高いニーズが予想されるため、注意が必要です。

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言い方に気をつける

すみませんがこれは家族の分なので
これ、最後のひとつですから

など、やんわりと断る表現を準備しておくと良いでしょう。大切なのは、「断る」ことが悪ではない、という認識です。

これに対し、おねだりする側の立場からすれば、見ず知らずの他人に「物乞い」をすることは、本来なら避けたいところ勇気を出してお願いをしている、というのが普通だと思われます。

断るにしても、言い方次第でお互いに気まずい思いをせずに済むだけではなく、無用なトラブルも回避できるでしょう。

見ず知らずの他人に「物乞い」をすることは、本当はやりたくないのだけれど恥を忍んでやむを得ずお願いをしているのが普通

等価交換という支え合いのかたち

状況によっては、当事者ではなく「善意の」第三者が

困ったときはお互い様でしょう
とか
助け合いの精神

などと反論しにくい「正論」で割り込んできて責め立てるかも知れません。

しかし一方的な提供は本当の意味で“助け合い”ではありません
したがってその場合は次のように「等価交換」を提案してみてはいかがでしょうか。

  • 食料を求められたら「代わりに何か交換できる物ありますか?」と聞く。
  • 日用品と引き換えに、掃除・配膳・見守りなどの協力を依頼
  • 「私はこれを提供できる。あなたには何ができますか?」という対等な対話の姿勢

これは冷たさではなく、共に生き延びるための信頼づくりです。

もしこの等価交換を渋るようであれば逆に
おたがい助け合いの精神でいきませんか
と返してみてはいかがでしょう。

ただし、相手が身体が不自由で、本当に何も持っておらず役務提供も無理という場合は、手を差し伸べる必要があるかも知れません。しかしそれはあなた一人の仕事ではありませんから、一人で抱え込む必要はありません。そばにいる他の人々と一緒に出来ることを考えましょう。

それでも自分が「持たざる者」になったときのために

ちゃんと災害に備えてきた人から見れば、避難所で備蓄品をおねだりする人に対してはこんなふうに思えるはずです:

完全にアリとキリギリスそのものじゃないか。

これだけ普段から、政府や自治体から今に巨大地震が来るから災害への備えを呼びかけられていたにも関わらず、それを怠ってきた上、「助け合い」といいつつ自分は何も提供することなく一方的に人に食べ物をねだったり、行政に依存しようとするような意識の低い人を、なぜ、しっかり準備してきた自分が一方的に助けなくてはならないのか。

自分はまず自分と家族を守る。これが最優先だ。

そう思う気持ちはとても良く理解できます。

しかし忘れてはいけないのは、今は「備えた側」である自分が、いつか「すべてを失った側」になるかもしれないということ。

  • 旅行先で被災
  • 地震で発生した隣家の火災の延焼によって自宅と備蓄品をすべて失い、やむを得ず避難所に行く
  • 津波で流され、所持品を全て紛失した上、全身ずぶ濡れで命からがら避難所に到着

こうした状況にあって、もし自分が物質的に提供できるリソースがなくても、避難所運営、例えばトイレ掃除、汚物処理、力仕事を積極的に行ったり「ありがとう」と言ってもらえる何かを持っておく。

それが人としての誇りを守る防災でもあります。

だからこう自分がこのような状況に置かれたことを考慮して、もし備蓄品の提供を依頼されても、「自分勝手なおねだり」とか「クレクレ」と切り捨てず、何か事情があるかも知れないと想像すれば、その後の対応も変わってくるのではないでしょうか。

まとめ:備えることは、自分を守り、他者と支え合う力にもなる

繰り返しますが、この記事で紹介したようなトラブルがすべての避難所で起こるわけではありません
むしろ温かな助け合いが行われている避難所が大多数でしょう。
この記事は、あくまで「もしもに備えるための視点」として、冷静に受け取っていただければと思います。

「備える」ことは、ただ物を持つだけではありません。
自分を守る力であり、余裕をもって誰かを助ける力にもなります。
与える側にも、助けを求める側にもなり得る私たちだからこそ、“支え合いのカタチ”を見直しておくことが、未来の命をつなぐ防災につながると思うのです。

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ABOUT ME
もげら47
自衛隊で大型輸送ヘリの機長として15年勤務。その間、震災や林野火災など数多くの災害派遣に出動。その後消防防災航空隊に転職し、消防防災ヘリの機長として、10年以上にわたり山岳救助、空中消火活動などに従事。 次いで2年間地方自治体の防災課で防災関連の事務事業を推進するなど、防災一筋の人生。 現在はこうした経験を活かし、防災士ブロガーとして防災関連の情報を発信しています。 【保有資格】 ・防災士 ・事業用操縦士(回転翼機+飛行機) ・航空無線通信士 ・乙種第4類危険物取扱者 ・他