避難所の「クレクレ問題」を心配するあなたへ

― 備えていても“お願いする側”になる可能性
備えてきた自分でも「持たざる者」になる可能性
私は、自宅を建てるときに「地震に強い家をお願いします」と工務店に頼んで、実際そのように建ててもらいました。
専門家に任せ、できる範囲で最善の選択をしたつもりです。
それでも、ふと考えることがあります。
隣家は古い建物で、しかも石垣の上に建っている。
大きな地震が来たとき、自分の家が無事でも、周囲が無事でいられるとは限りません。
もし隣家が倒壊し、火災など二次被害が起きれば、「備えてきた自分」も、着の身着のまま避難所に向かうことになるかもしれない。
備えは大切です。
しかし、あらゆる災害に対して完全無欠な準備はできません。
だからこそ、自分が「持たざる者」になる可能性も、想像しておく必要があります。
避難所の「クレクレ問題」とは何か
避難所のクレクレ問題ってよく聞くけど、やっぱりちゃんと備えてきた立場からすると、たかられるのはイヤだよなあ
確かにそうかも知れませんけど、ちょっと視点を変えて眺めてみませんか?
ネット上では、避難所で起きる「おねだり」が
「避難所のクレクレ問題」
「くれくれ問題」
と呼ばれることがあります。
あわせて読みたい:
→避難所の“クレクレ問題”にどう向き合う?備蓄を守る工夫と“対等な助け合い”の知恵
備えてきた人が持っている食料や物資を、他の避難者が一方的に求めてくる。
あるいは、「助け合い」を理由に、断りにくい空気が生まれる。
ただし、はじめに確認しておきたいのは、
すべての避難所でこの問題が起きているわけではない
ということです。

多くの避難所は、淡々と、静かに運営されています。
それでも、「クレクレ問題」という言葉が目立つのは、トラブルの話題ほど拡散されやすいからでしょう。
この記事は、不安を煽るためのものではありません。
あくまで、一部の避難所で起こりうる状況を、別の角度から考えるためのものです。
あわせて読みたい:
→避難所ってどんな場所? ― 知っておきたいしくみと現実、そして快適に過ごすための工夫
なぜ人は「お願いする側」になってしまうのか
それでも、家も持ち物も失い、選択肢がなくなったとき、人は誰かを頼るほかありません。
見ず知らずの人に「少し分けてもらえませんか」とお願いするのは、普通は恥ずかしく気まずい気分になるものです。本当は、誰だってそんな立場にはなりたくない。
けれども、こうした状況は、追い込まれた状況で起きる、ごく人間的な反応だと言えるでしょう。
もし自分が「避難所クレクレ」と呼ばれる立場になったら
ここで、一度立ち止まって考えてみてほしいのです。
もし自分が、家も備蓄もすべて失った状態で避難所に来たとしたら。
そのとき、自分はどんな振る舞いをしているでしょうか。
「クレクレをしない自信がある」と、迷わず言える人は、どれほどいるでしょう。
大切なのは、お願いすること自体を悪だと決めつけないことです。
問題になるのは、一方的に受け取り続ける関係が固定化してしまうこと。
それは、与える側だけでなく、受ける側の尊厳も削っていきます。
「お願いする側」でも尊厳を失わない振る舞い方
では、もし自分が「お願いする側」になったとき、どう振る舞えば、自分の尊厳を守ることができるのでしょうか。
あります。
それは、たとえば次のような行動です:
- 避難所の設営や片付けを手伝う
- トイレや共用スペースの清掃を引き受ける
- 配給の列整理や見守りを担う
- 力仕事や雑務を率先して行う
助けを受けることと、何もしないことは同義ではありません。
「自分は今、何を差し出せるだろうか」
この問いを持っているかどうかで、避難所での立ち位置は大きく変わります。
それは、誰かに評価されるためではなく、自分自身の誇りを守るためでもあるのです。
「クレクレ」で切り捨てる前に考えておきたいこと
この記事は、「クレクレを許そう」と言いたいわけではありません。
また、「備えていない人を理解すべきだ」と訴えたいわけでもありません。
今は備えている自分が、ある日突然、助けを求める側になるかもしれない。
その現実を、少しだけ自分ごととして考えてみる。
それだけで、避難所で起きる出来事の見え方は変わります。
与える側と受ける側は、固定された立場ではありません。だからこそ、「どう支え合うか」を平時から考えておく意味があります。
まとめに代えて
備えることは、自分を守る力であり、誰かを助ける余裕を生む力です。
そして同時に、助けを受ける立場になったときの自分を守る力でもあります。
「避難所クレクレ」という言葉で切り捨ててしまう前に、もし自分がその立場になったら、どう振る舞えば尊厳を守れるか。
こうしたことを静かに考えておくこともまた、防災の一部なのではないでしょうか。

















