避難と行動

避難所ってどんな場所? ― 知っておきたいしくみと現実、そして快適に過ごすための工夫

避難所ってどんなところなの?
あまりいい話聞かないんだけど…

避難所生活って、一生の内に何度も経験するものではないので不安に思うのも無理もありませんね。
でも、避難所生活がどんなだか予想が付けば、準備の仕方も分かります。ちゃんと準備しておけば何とかなります。

はじめに

避難所は災害から命を守るための大切な場所です。
しかし、多くの人が集まるため、普段の生活とは異なる環境になります。
事前に避難所の実態を知り、適切な準備をしておくことで、不安を減らし、快適に過ごすことができます。

本記事では、避難所での生活のリアルな側面と、それをうまく乗り切るための工夫を紹介します。

なんで避難しなきゃいけないの?

「そもそも避難しなくてはならない状況って?」
と思いませんか?
避難」とは「」を「ける」ということで、必ずしも避難所に行くことを指すわけではありません。自宅に留まることが安全だと判断されれば、そのまま「在宅避難」をすることになります。一方、浸水や倒壊などの危険があってその場にいることが危険だと判断されれば、「避難」をします。

避難先としては、学区内の学校の体育館や公民館など事前に指定された「指定避難所」でなくても、親戚の家、知人宅、ホテルなど安全ならどこでもよく、「指定避難所」はこうした選択肢のうちの一つに過ぎません

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指定避難所ってどんな場所?

先ほど、避難先は親戚宅、知人宅、ホテルなどどこでも良いと述べましたが、ここではやはり多くの人々がまだ経験したことのない「指定避難所」を例として解説します。

指定避難所は、小中学校の体育館、市町村の施設、公民館が指定されることが多いのですが、知っての通りこれら施設はそもそも宿泊するために作られているわけではありません。

飽くまでも一時的な安全確保を目的として多くの他人同士が共同生活を送ることになるため、ホテルのような快適さを期待する場所ではありません。

避難所の開設と運営

まず知っておいて頂きたいことは、避難所は発災からすぐに開設されるとは限らないということ。
なぜなら避難所は施設管理者(学校の体育館であればその学校の教職員)か、または市町村役場の職員が開設する事が多いのですが、次のようなことに留意しなくてはなりません:

  • 夜間に管理者が常駐しているわけではない
  • 発災直後は役場が初動対処のため職員らは多忙を極めていてマンパワーが提供できない
  • 運営すべき役場の職員自身が被災するケースが有る

したがって、多くの避難所では、被災者自身が自主的に受付や支援物資の配布、炊き出し、清掃などを分担しながら運営を支えていくことになります。

避難所はホテルではない

このように、自分が避難者であっても「自分たちの避難所を一緒につくる」という意識が、結果的に秩序と円滑な運営を生み出します。特に、日頃から地域の防災訓練や自治会活動に関わっておくことによって「顔の見える関係」が助けになります。

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避難所での生活

「避難所」と聞いて多くの人々が想像するのは、多くの人々が体育館で密集して雑魚寝している様子ではないでしょうか。

一昔前までは、そんな風景が普通でしたが、COVID19(新型コロナウィルス感染症)による感染対策が一般化して以来、テント型のパーティションが設置され、家族単位でのプライバシーが保護される場合もあります。

ただし、それも状況によります。

災害の規模が大きくなると…

  • 避難者が増える
  • 避難所を数多く開設しなくてはならなくなる
  • 避難所が増えれば行政の手が回らなくなる

という状況になるため、避難所は「壁と屋根があるだけの場所」と考えておくべきです。だから手ぶらでいけば不便な思いをするでしょう。準備しておくものとしてはこちらが参考になります:
もう迷わない!避難に最適な非常用持ち出し袋はこう備えよう

避難所の環境と個人レベルで行う対策

何だか大変そうだね。
避難所で快適に過ごす方法はないの?

自宅と同じくらい、とは言いませんが、しっかりと準備しておけば少しでも快適に過ごすことはできます。

トイレ

避難所と言えばトイレが真っ先に大きな問題になります。実際、これまで数多くの避難所ではトイレが「とんでもないこと」になってきました。
つまり、数多くの避難者が断水したトイレにそのまま用を足すので、汚物が山盛りになるのです。

【どうすれば良い?】

平成28年熊本地震「避難生活におけるトイレに関するアンケート」(日本トイレ研究所)によると、「避難生活の初期において、もっとも困ったこと」では62%の人々が「トイレ」と回答しており(複数回答)、食事(50%)とプライバシー(40%)を超えています。

トイレが使えなくなると、そこら辺に掘った穴や、体育館の裏の側溝で用を足すようになります。食事は我慢できても、トイレは我慢できないからですね。(とはいえ、女性はそんな簡単にいかないから問題なのですが)

最近は、避難所となる小中学校や自治体の施設に「マンホールトイレ」を設置するケースもありますが、全ての避難所にあるわけではありません。

【マンホールトイレの例】

非常時に使うマンホールトイレは下水用マンホールを直接トイレとして利用する

だから、せめて少しでも良いので各自で非常持出袋には非常用トイレを入れておくと良いですね。

食事と水

配給はありますが、最初の数日は十分に行き渡らないと思ったほうが良いでしょう。災害の規模が大きくなればなるほど、その期間は伸びるかも知れません。

どうすればいい?

自分用の非常食と水を準備しておく必要があります。非常持出袋に準備して持っていきましょう。

非常持ち出し袋を準備しよう

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もう迷わない!避難に最適な非常用持出袋はこう備えよう

人間関係

やはり多くの人が心配するのはこの点ではないでしょうか。

互いを見知らぬ不特定多数の人々が集まって共同生活を送るため、場合によっては摩擦が発生するかも知れません。

元々非常時で心的な疲労もある中では特に、生活スタイル、占有面積(場所取り)、支援物資の配分、作業の分担、騒音…様々なことが争点になりえます。

避難所は大勢の見知らぬ人、それも生活スタイルの異なる不特定多数の人々が集まるため、ある程度の摩擦は避けられません

どうすればいい?

生活パターンの違いを克服するためにはアイマスクと耳栓など「自分の快適ゾーン」を保つためのグッズを備えておくと安心です。

また、自治会(町内会)で日頃から顔の見える関係を築いてきた地域では、災害の場面で非常に有効に機能することが、これまでの災害において証明されています。

最近は自治会を敬遠する家庭が多いため全国的に会員数が激減しており、地域によっては自治会を解散する例も後を絶たないと言われてますが、災害時には「共助」の枠組みとして有効に機能するため、できるだけ加入して普段から自治会の活動、特に防災訓練には積極的に参加しておくとよいでしょう。

防犯対策

避難所は多くの人が出入りするため、盗難もあります。

また、悲しいことに昔から避難所での性被害はつきもので、阪神・淡路大震災でも、東日本大震災でも避難所における性被害は発生していました。
東日本大震災「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」に関する調査報告書
 (東日本大震災女性支援ネットワーク)

どうすればいい?

盗難対策

貴重品は常に身につけておくとともに、定期的に持ち物の状況を確認しておきましょう。就寝時は枕(エアクッション)の下に入れるなどの自衛が大切です。

防犯対策に不備があれば貴重品を失うだけではなく、即、人間関係の悪化につながるので、油断せず万全を期すことが大事です。

性犯罪対策

トイレの問題とも関係が深いのですが、女性・子どもは単独行動を避けるとともに、防犯ブザーや笛を持ち、不審な状況を感じたらすぐに周囲に知らせるなどの自衛手段が必要です。また、「そういうことがあり得る」と心構えしているか、そうでないかの差は非常に大きいと思います。

快適グッズ

車中泊をする場合に気をつけたいこと!

プライバシー保護のために、車中泊を選択する人々も多いです。

が、基本的に避難は徒歩で行うので、車中泊を前提とした準備はあまりおすすめしません。
それでも様々な事情によって自動車で避難所に来る人も多いかと思います。車中泊をする場合は次のことに気をつけましょう。

時々体を動かす

狭い車内でずっと同じ姿勢を続けているとエコノミークラス症候群になります。
車内でも足首を回す、足の指を閉じたり開いたりする、ふくらはぎをマッサージする、あるいは時々車外に出て軽く体を動かすなどをして、血栓の発生を予防しましょう。

周囲の人々に配慮する

エンジンをかけたままでいると、騒音や排気ガスがトラブルの原因になるので、場所と時間帯に配慮しましょう。

排気ガスによる中毒と火災に注意

アイドリングで過ごす場合は、騒音だけではなく排気管が雪や雑草で塞がれることの無いように注意しましょう。積雪で塞がれれば一酸化炭素中毒、枯れ草で塞がれれば火災の原因になります。

ペットがいる場合

ペットも家族の一員です。避難するときは当然一緒に連れていきたいですよね。
けれども、普通は避難所の中に入れるわけには行きません。

鳴き声、臭い、糞尿の始末、支援物資の配分、アレルギーの問題などで、他の避難者とのトラブルの原因になるかも知れないからです。実際、東日本大震災においては避難所に連れ込んだペットによるトラブルが多数報告されています。(環境省 災害時におけるペットの救護対策ガイドライン)

ペットを受け入れるかどうかは自治体や避難所によってまちまちなので、事前に調べておくことが大切です。

あわせて読みたい:
ペットは避難所に連れて行ける?─行政の限界を知る元防災課職員が語る“本当に備えるべきこと”

まとめ

いかがだったでしょうか。

避難所は、命を守るための大切な場所です。不便な面もありますが、事前の準備と心構えがあれば、より安心して過ごすことができます。避難所生活を快適にするためのポイントを押さえ、いざというときに備えましょう。

ABOUT ME
もげら47
自衛隊で大型輸送ヘリの機長として15年勤務。震災や林野火災など多数の災害派遣に出動。|その後、消防防災航空隊に転職し、消防防災ヘリの機長として10年以上にわたり山岳救助や空中消火活動に従事。|次いで2年間、地方自治体の防災課で防災関連の事務事業を推進するなど、防災一筋の人生。|現在はこうした経験を活かし、防災士ブロガーとして防災関連の情報を発信しています。|【保有資格】防災士・事業用操縦士(回転翼機+飛行機)・航空無線通信士・乙種第4類危険物取扱者・他| ■記事に登場する「わからんこ」や「ちびもげら」って誰? ■キャラクター紹介はこちら