はじめに
防災マップとハザードマップって、違うものなの?だとすると何が違うの?僕の住む町のハザードマップを調べようとしたらそれらしいものはあったんだけど、タイトルには「防災マップ」って書いてあってさ。
ああ、やっぱり迷いますよね。
実は私も最初どういうことだろうって不思議に思ってました。
そこで今回は、「防災マップ」と「ハザードマップ」の違いを歴史や制度の背景から整理してみますね。
結論から言うと、大まかに次のような使い分けがされていますが、実はその境界は曖昧です。
防災マップ
避難所、避難場所、避難ルート、消火栓や防火水槽の位置を示す地図
ハザードマップ
各種災害リスクの影響を受ける区域を示した地図(洪水、土砂災害、地震、津波など)
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「防災マップ」という言葉の歴史
「防災マップ」の誕生
「防災マップ」という言葉が登場したのは、昭和63年から平成11年までの間、国土庁(当時)が「防災マップ作成モデル事業」を実施しました。これは、住民が地域の災害リスクや避難経路を理解し、共通の認識を持つために活用するものでした。
例えば下の図は、この事業の一環として平成5年に作成された鎌倉市の「防災マップ」です。浸水区域や急傾斜崩壊危険区域(土砂災害に注意すべきところ)に加え、避難所や消防署の位置が記入されています。

当時は「ハザードマップ」という言葉はまだ一般的ではなかったので、こうした国の施策では「防災マップ」という呼称が用いられていました。
現在の用法と定義
ただし、この「防災マップ」という用語、実は法令上の用語ではなく統一的な定義も存在しません。
そのため、現代では自治体によって、避難所、避難場所、避難ルート、消火栓や防火水槽の位置を示す地図を「防災マップ」と呼んだり、災害リスクを盛り込んだハザードマップに避難情報を付け足して「防災マップ」と呼んだりと、実は呼び方は統一されていないのが現状です。
参考までに、下は大阪市の例です。ここでは市内各区の「防災マップ」を紹介しています。

それぞれのリンク先を見てみると、災害リスクではなく、主に避難所などの情報が掲載されています。一方、「ハザードマップ」はまた別のページ(下図)で案内していることから、これらは別ものとして扱っていることがわかります。

ちなみに、内閣府が毎年作成する「防災白書」にも、防災士を目指す人のための教科書である「防災士教本※」にも、「防災マップ」という用語は登場しません。
つまり「防災マップ」は公式に体系化された概念というよりは、自治体や時代ごとに使われてきた呼称だと言えます。
※「防災士教本」は日本防災士機構が編集・発行している防災士のための教科書で、防災士必携の書です。もちろん、私もこれで勉強しましたし、今でも時々見直しています。

「ハザードマップ」という言葉の普及
一方で「ハザードマップ」という言葉は、平成27年の水防法改正を大きな転機として広まりました。
同法の改正によって、市町村は「浸水想定区域に関する情報を住民に周知する」ことが義務づけられ、その手段として「印刷物の配布」が明記されました。法律の条文には「ハザードマップ」という言葉自体は出てきませんが、国交省が作成した「水害ハザードマップ作成の手引き」などのマニュアルで一貫してこの言葉が使われたことで、全国的に定着しました。
今では国や自治体の公式広報の多くが「ハザードマップ」という言葉を採用しており、こちらが主流用語になっています。
じゃあ何が違うの?
整理すると、両者には次のような「傾向」があります。
- 防災マップ:避難所・避難経路といった行動に直結する情報が中心。
- ハザードマップ:災害リスク(浸水・土砂災害・津波など)の予測情報が中心。
とはいえ、飽くまでも「傾向」であって、実際には両者の境界はあいまいで、ハザードマップに避難所を掲載する自治体もあれば、防災マップと称して災害リスクを盛り込んでいる自治体もあります。
例えば、下は高知県の例です。

リンク先を見てみると、災害想定と避難所が共に表示されていて、いわゆる「ハザードマップ」であり、かつ「防災マップ」ともいえます。実際、ページの表示も「防災マップ」と「ハザードマップ」という用語が共存しているようです。表記揺れなのか、あえて使い分けているのかは不明ですが…。

つまり実態としては、名称と意味が自治体ごとに異なるケースが多いのです。
まとめ
防災マップとハザードマップは、歴史的には「防災マップ」が先に登場し、その後「ハザードマップ」が制度とともに普及してきました。
ただしすでに述べてきた通り、現在では両者を厳密に分けることは難しく、自治体によって呼び方も内容も異なります。
なお、ハザードマップで災害の想定区域外とされた場所は、まるで行政が安全を保証してくれたかのような錯覚に陥りがちですが、そういう使い方をするものではありませんから、この点は注意してくださいね。
というわけで、その違いを気にするよりも「自宅周辺がどんなリスクにさらされているのか」「避難先はどこなのか」を把握するとともに、決して「安心マップ」として使用しないようにしましょう。
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