どうも!Mogera47です!
自衛隊で15年、防災航空隊で10年、自治体の防災課で2年、と災害対策一筋でやってきた防災士です。
はじめに―――林野火災は“対岸の火事”じゃない
最近(令和7年4月現在)は林野火災が相次ぎました。
ニュースでご覧になった方も多いと思います。
しかも、大船渡市では林野火災が原因となって住宅が全焼するなど大きな被害が出たので、より印象に残ったのではないでしょうか。自宅の近くで林野火災が発生したらどうしようかと心配になった方もいらっしゃるかも知れません。
林野火災は一見「対岸の火事」のように思えるかもしれません。しかし、今回の大船渡市のような事案のようにひとたび大規模化すると、多くの人々の生活に直接影響することになります。
ここでは、筆者の実体験に基づき、行政による林野火災への対応と、林野火災が発生した場合に取るべき対応、林野火災を予防するために重要なことなどを解説したいと思います。
相次ぐ山火事のニュース──あなたの町でも起こり得る

「はじめに」で述べたとおり、最近は大規模な林野火災が連続しており、大船渡市では1名が死亡しています。下表は、本稿執筆現在(令和7年4月)における、今年発生した主な林野火災の一覧です。

お隣韓国・南東部で令和7年3月21日に発生した山火事では、何と30人が死亡、住宅は3300戸余りが全焼したと伝えられています。しかも消火活動に従事していたヘリが墜落するという二次災害まで発生しています。
山火事が近くで起きたとき、何が起こるのか?
まずは自宅への影響に注目
自宅の近くで山火事が発生すれば、当然気になりますよね。
風向きによっては延焼する恐れがあるため、まずは避難する必要があるかどうか、自らの判断で良く見極めましょう。防災の基本は「自助」です。
また、状況によっては、お住まいの市町村から避難指示が発令される場合があります。
多くの場合は防災無線などで放送があったり、あるいは市町村役場が運営するX、LINEなどのSNSでも周知されることもあるので、そういった情報にも注目しておきましょう。
林野火災のここが大変
林野火災が発生すると、地上からの消火は困難を極めます。なぜかというと…
- 山の中なので火元までのアクセスが悪い(火元まで車両でアクセスできない)
- 地上からは火元特定も困難、可視範囲が狭いため火災の全般状況を把握しにくい
- 火元に水を搬送する手段がホースを継ぐか背負い式消火水のう(通称ジェットシューター)しかない
- ホースを継いで高い場所まで送水すること自体が困難(とんでもない圧力を要する)

空から飛んでくる“消火部隊”──誰が何をする?
そこで有効なのが消防防災ヘリコプターによる「空中消火」です。
空中消火とはヘリコプターで上空から散水する方法。
これが最も効果的で効率的です。

だから地元消防本部は、林野火災が発生すると消防防災ヘリコプターに支援を要請するのです。
空中消火の現実──ヘリからの散水って効くの?
防災航空隊の現場から見た“効果と限界”
消防防災ヘリは1回あたり数百Lを散水することができるので、地上隊が人力で水を山に運ぶよりは断然効率的で効果的です。
また、自衛隊の大型ヘリ、筆者も以前乗務していたCH-47であれば、1回で5tくらい散水することができるため、制圧力は圧倒的です。

バンビバケットという消火機材を使って1回で5tもの散水ができる。
ただし!空中消火も万能ではありません。次のような難しいところもあるのです。
空中消火の限界①:命中するとは限らない
想像していただければ分かると思いますが、前進しながら空中から水を投下するのはやはり困難です。風の影響も受けます。ここは機長以下クルーの腕の見せ所。だからこそ普段からの訓練が必要になるのです。
ヘリは空中停止(ホバリング)できるんでしょ?
空中停止しながら狙いを定めれば簡単に当たるんじゃない?
ホバリングすると、ダウンウォッシュ(吹き下ろしの風)で焚きつけるので、あまり良い方法とは言えませんね

じゃあダウンウォッシュが当たらないくらい高いところからまけば良いんじゃないの?
そうすると霧状になって火元まで水が届きません
だから普通は前進しながら、適切な高度から水をまくのです
前進してもダウンウォッシュが当たるのでは?
前進速度があればダウンウォッシュはいくらか弱くなります。理由はここでは述べませんが…。また、速度が速すぎても霧状になって効果が弱くなるので、適切な速度というものがあります。
空中消火の限界②:ホースで水を掛けるのと異なり散水が断続的
当然ながら、ヘリで散水する場合はホースと違って連続的に散水できるわけではありません。
そして水利(水を汲む場所:ダム湖やため池など)から火災現場までの距離によっては、散水と散水のインターバルが長くなります。そういう場合「あれ!?さっき水をかけたところが再び燃え始めている!」ということになります。
したがって、現場の近くに適切な水利を確保し、できるだけ一度の散水量を多くしつつ、散水の間隔を短くすることが重要になります。
空中消火の限界③:一回の散水量に制限がある
一回あたりの給水量には当然ながら重量の制約が出てきます。
ヘリは徐々に燃料を消費していくので、その分給水可能な水量は少しずつ増えていきますが、多くの消防・防災ヘリでは、一回の給水可能量は300~1000Lくらいです。
私たちにできる”備え”と”対策”とは?
林野火災の原因から見た火災予防のカギ
林野火災の原因は不明な場合が多いのですが、7割は人為的な原因と判断されています。
つまり、林業・農業関連の野焼きや火入れ、たき火、タバコのポイ捨てです。

なので、言うまでもないのですが、やはり火災予防には次の4つが有効、というかそれしかありません:
- 乾燥・強風の日に「たき火」や「野焼き」をしない
- 火を扱うときは消火用水を手近に準備
- たばこの投げ捨てをしない
- 火のそばから離れない
どれも当たり前の話で、「聞き飽きたよ」という人もいるかも知れませんが、聞き飽きるというのはそれだけ大事だから何度も繰り返し言われているのではないでしょうか。
まとめ
林野火災は、私たちの暮らしから遠い存在ではありません。強風と乾燥が重なれば、ちょっとした火種が大規模な火災を引き起こし、自宅や命にまで被害が及ぶ危険があります。
実際に、令和7年2月の大船渡市の林野火災では住宅全焼、一人死亡という重大な結果を招いています。
また、林野火災は規模が大きくなるほど、鎮火までに投入する労力は幾何級数的に大きくなります。そして消火活動に従事する人々はその分大きなリスクにさらされるのです。
だからこそ、一人ひとりが「火を出さない」「広げない」ための行動を取って頂きたいと切に願うのです。
「ちょっとだけなら大丈夫」と思わず、どうか火気の扱いには最大限の注意を。
そして、自宅近くで林野火災が発生したときには、自ら情報を収集し、早めの避難を意識することが命を守るカギになります。
林野火災は“対岸の火事”ではなく、いつか“あなたの町”で起きるかもしれない現実です。
今一度、身の回りの火の使い方と防災対策を見直してみませんか?
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