基本知識

ハザードマップの正しい使い方|防災士が教える7つの種類と活用法

はじめに

ハザードマップ」っていうの?自治会の会報と一緒に郵便受けに入ってたんだけど…これって必要?捨てても良い?

絶対捨てないでください。命を守るために必要な情報が満載です。

ここでは、そんな大事な「ハザードマップ」について解説します。

この記事を読むことで、次のことが分かります:

  • ハザードマップの種類
  • どうやって使うか
  • 入手方法
  • 使用上の注意

そして、災害リスクを「自分ごと」として認識できるようになります。

ハザードマップとは

災害が発生した場合に、その影響を受ける区域を示した地図のことです。災害時の避難を適切に行えるようにすることが主な目的で、要するに「災害の危険のあるところを分かるように図示した地図」です。

ハザードマップは、洪水、土砂災害、地震、津波など様々な自然災害ごとに作成されます。

誰が作ってるの?

主に市区町村が作成して、住民に配布します。
中には都道府県が作成するものもあります。

平成27年(2015年)に水防法が改正され、市町村は洪水、土砂災害及び津波に関する情報を住民に周知することが義務づけられました。これは主に印刷物の形で配布されることが多いのですが、その他インターネット上でもpdfの形でデータを公表しているので、お住いの市町村HPで閲覧することも可能です。電子地図の形で公開する例も多いです。

「○○市(町/村) ハザードマップ」と検索すれば簡単にたどり着くことができます。

防災マップ」っていうタイトルのものも見たことあるけど、「ハザードマップ」とどう違うの?

本質的には余り差はありません。詳しくはこちらの記事をごらんください:
「ハザードマップ」と「防災マップ」は何が違う?行政経験をもつ防災士が解説

ハザードマップを有効に使うために

ハザードマップは、自治体がそれぞれ公開するものがメインですが、その一方で国土地理院が全国自治体のハザードマップを集約した特別なサイトを開設しています。

ここ↓では全国の災害リスクを横断的に眺めることができるので便利です。

重ねるハザードマップ :全国地図に各種災害リスクを重ねて表示
わがまちハザードマップ:全国の自治体が作成したハザードマップへのリンク集

ハザードマップの主な類型

先に、ハザードマップは災害の種類ごとに分類されると述べました。
ここでは、その災害の種類についてそれぞれ説明します。

①洪水ハザードマップ

河川の破堤(堤防が壊れること)・氾濫などの浸水範囲とその深さや、避難場所などの情報を地図に重ねたものです。市町村は法律でこのハザードマップ作成と周知を義務付けられているので、すべての市町村が作成しています。

浸水の深さを色分けで表現し、避難場所がピクトグラムで示されます。

ピクトグラム(防災標識)についてはこちらの記事をごらんください:
災害時に役立つ「防災標識」って知ってる?―見慣れたマークの意味と覚え方を徹底解説

下は秦野市の洪水ハザードマップの例です。

洪水ハザードマップの例
引用:秦野市HPより

これら洪水ハザードマップは、主として河川の氾濫を対象としていますが、近年では集中豪雨の多発化に伴い、下水などから雨水が排水しきれずに浸水する「内水氾濫」の危険性を示すための「内水ハザードマップ」の作成・公表も進んでいます。

羽生市内水ハザードマップ(サンプル)
引用:羽生市 内水ハザードマップより

ないすいはんらん??どういうこと?

集中豪雨などで排水が追いつかずこんな風↓に水が溢れ出すことだよ
これが酷くなると道路が冠水したりする

内水氾濫によりマンホールから水が溢れ出る様子
内水氾濫によりマンホールから水が溢れ出る様子

②土砂災害ハザードマップ

土砂崩れや地滑りなどの土砂災害が特に発生するおそれがあると考えられる「土砂災害警戒区域」や「土砂災害警戒特別区域」を地図上に示したものです。こちらも洪水ハザードマップと同様、避難場所が併せて示される場合が多いです。
下は、新潟県長岡市の土砂災害ハザードマップの例です。
黄色いところは「イエローゾーン」と呼ばれ、「土砂災害警戒区域」を、赤いところは「レッドゾーン」と呼ばれ、「土砂災害警戒特別区域」を表しています。

引用:長岡市HP ハザードマップより

なお、土砂災害が予想される場所は主に山間部なので、平野しか無い地域では作成されません。

イエローゾーンとレッドゾーンは何が違うの?

イエローゾーン=「土砂災害警戒区域」は、土砂災害の発生する恐れのある区域のこと。
一方、レッドゾーン=「土砂災害警戒特別区域」は、その中でも建物の損壊によって住民の命の危険がある区域で、土地開発に一定の制限が設けられます。

③火山ハザードマップ

火山が噴火した場合の火砕流や溶岩流、降灰といった被害の及ぶ範囲を示したものです。

付近に影響のある火山がある地域で作成されます。

どのハザードマップにも共通して言えることですが、あらゆるケースをすべて網羅できるわけではなく、ある前提条件の下で表示することになるため、これら前提条件や解説を良く読んでリスクを正しく理解することがとても重要です。

下は、鹿児島市の桜島火山ハザードマップの例です。

鹿児島市の桜島火山ハザードマップの例
引用:鹿児島市 桜島火山ハザードマップより

④地震ハザードマップ

地震による揺れの強さや液状化の危険度を地図上に表したものです。

地震の揺れの強さは、多くの場合、想定される地震(南海トラフや活断層による地震)の中で最大の被害をもたらされると考えられるものを対象として作成されます。

とはいえ、震度分布はそんなに単純なものでもないので、ウェブで公開されるものは地震の種類や対象となる活断層を選択式にして公開している場合が多いです。

下は、滋賀県が公開している地震リスクマップです(ハザードマップという呼び方は特に統一規格があるわけでもないため、呼び方は自治体ごと異なります)。

滋賀県が公開している地震リスクマップ
引用:滋賀県防災情報マップ>地震リスクマップより

活断層による地震の場合は、断層帯の場所によって予想される震度分布が大きく異なるため、✓マークを入れて選択できるようになっていることが分かります。

また、地震による液状化の危険度を示すマップを公開している自治体もあります。
下は、高知県防災マップの例。液状化危険度と範囲を色分けで示しています。

高知県防災マップの例。液状化危険度と範囲を色分けで示しています
引用:高知県防災マップ(液状化危険度)より

⑤津波ハザードマップ

地震、と来れば次は津波です。

津波ハザードマップは、津波による浸水区域とその深さを示すものですが、これに加え、地震発生から津波到達時間や高台などの避難場所などの避難情報を併せて表示している場合が多いです。

なお、ハザードマップで想定する津波は、あらゆる可能性を考慮して最大クラスの想定地震規模で津波波高がより大きくなる地震などによって発生する最大クラスのものを対象としています。
(国土交通省 津波浸水想定の設定の手引き より)

下は、和歌山県日高町の津波ハザードマップの例です。

和歌山県日高町の津波ハザードマップの例
引用:日高町HP 津波防災ハザードマップより

⑥高潮ハザードマップ

高潮による浸水区域と浸水深を地図上に表示したものです。

こちらも、想定し得る最大規模の高潮が対象になります。例えば、伊勢湾台風規模などがモデルになります。

高潮??って何?

海から離れた地域に住んでいればあまり馴染みのない言葉ですね。
台風の影響で海水が陸地に浸水してくることです。

高潮についてはこちらをごらんください:
「台風に備える、家族を守る」事前にやるべき5つのポイント

⑦ため池ハザードマップ

ここまでの6つに比べれば少しマイナーかも知れませんが、全国に約21万ヶ所もある「ため池」が地震や豪雨などによって破堤した場合に浸水する範囲と浸水深を地図上に示したものです。

実はあまり知られていませんが、これらため池の多くは昭和初期以前に築造されたもので、老朽化により、堤体が突然決壊する例や豪雨や地震を引き金に被災する例も少なくありません

参考までに、2013~2023年の10年間における自然災害による農業用ため池の被災状況を下に示します。

引用:農林水産省 農業用ため池を巡る状況より

下は、兵庫県明石市のため池ハザードマップの例です。

兵庫県明石市のため池ハザードマップの例
引用:兵庫県明石市のため池ハザードマップより

ハザードマップを印刷物として持っておく理由とは?

ネットで見られるなら、やっぱり市役所から配布されたハザードマップは要らないな。

いやいや、そうとも限らないよ。

ハザードマップはできるだけ紙に印刷したものを持っておくと良いでしょう。その理由は4つあります。

  • 家族みんなで自宅周辺の災害リスクを認識したり、避難場所や避難所までの経路を確認できる(特に、最悪の事態を想定して子供だけでも避難できるよう準備しておくことも重要)
  • 定位置を決めておけばいつでもすぐに取り出して見ることができる
  • 停電しても見られる
  • 元は大きな地図なのでスマホの画面で見るにはあまりにも細かすぎ
ハザードマップで避難所までの経路を確認

もし、紙のハザードマップが手元にないということであれば、最低でも自宅から避難場所までの範囲を印刷して持っておきましょう。

ハザードマップ(防災マップ)利用の注意事項

僕の町のハザードマップ、ちゃんと見たよ!ウチは特に何の災害想定区域にも入ってないから大丈夫みたい。
ああ良かった。じゃあ頑張って色々備える必要もなさそう…

…って、ちょっと待って!
ハザードマップは「安心マップ」じゃありませんよ!

ハザードマップで示されている災害発生の場所や規模については、一定の前提条件の下で算定されたものです。それ以上の被害が発生する可能性が絶対無いとは言えません。何しろ相手は自然ですから。

ハザードマップで災害の区域外とされた場所は、まるで行政が安全を保証してくれたかのような錯覚に陥りがちですが、そういう使い方をするものではありません。「周辺よりもいくらか危険度が低い」くらいの認識だと思います。

確かに家を建てる場合などに土地選びの参考にはしますが、やはり災害にはきっちり備えておくことが大切です。

まとめ

ここまで、ハザードマップの7つの類型を見てきました。

  1. 洪水ハザードマップ
  2. 土砂災害ハザードマップ
  3. 火山ハザードマップ
  4. 地震ハザードマップ
  5. 津波ハザードマップ
  6. 高潮ハザードマップ
  7. ため池ハザードマップ

ハザードマップは、「もしもの時にどこが危ないか」「どう避難すればいいか」を教えてくれる、いわば“命を守る地図”です。
でも、それは「完全に安全な場所」を保証するものではありません。

だからこそ、大切なのは――
✔ 家族と一緒にマップを見て避難経路を確認しておくこと
✔ スマホだけに頼らず、紙の地図として手元に置いておくこと
✔ 「うちは大丈夫」と思い込まず、自分で情報を取りに行くこと

ハザードマップは「安心」ではなく、「備えるためのヒント」をくれるツール。
今日から、あなたの防災習慣に取り入れてみませんか?

ABOUT ME
もげら47
自衛隊で大型輸送ヘリの機長として15年勤務。震災や林野火災など多数の災害派遣に出動。|その後、消防防災航空隊に転職し、消防防災ヘリの機長として10年以上にわたり山岳救助や空中消火活動に従事。|次いで2年間、地方自治体の防災課で防災関連の事務事業を推進するなど、防災一筋の人生。|現在はこうした経験を活かし、防災士ブロガーとして防災関連の情報を発信しています。|【保有資格】防災士・事業用操縦士(回転翼機+飛行機)・航空無線通信士・乙種第4類危険物取扱者・他| ■記事に登場する「わからんこ」や「ちびもげら」って誰? ■キャラクター紹介はこちら