また災害が発生したね!何か力になれないかな。
そうだ、家にあるタオルや服、送ってあげたら喜ばれるかも!
そう考えるのは、自然で、優しい気持ちです。でも、ちょっと待ってください。その善意の支援物資が、実は被災地にとって“迷惑”になってしまうことがあるのです。
え!?どういうこと?
この記事では、長年防災行政に携わってきた立場から、「なぜ個人からの支援物資が問題になりやすいのか」、そして「本当に役に立つ支援の方法」について、わかりやすくお伝えします。
被災地では“善意の支援”が負担になることも
「自分にはもう使わないけれど、誰かにとっては役立つかもしれない」
実は、そんな思いで送られた物資が被災地では“第二の災害”とまで呼ばれてしまうことがあります。
被災直後の自治体は、避難所の開設や安否確認、ライフラインの復旧対応などで大混乱の状態。そこに個人からの支援物資が大量に届くと、仕分け・保管・配布の対応に人手とスペースが取られ、本来の災害対応に支障が出てしまうことがあるのです。
被災者を支援したいという気持ちはとても尊く、それ自体は本当に素晴らしいものです。
ただし、「自分が不要だけど、誰かにとっては役に立つかも」というあいまいな理由でモノを送るのは、控えた方が被災地のためです。それは、自分がいらないと思ったものは他の人にとっても不要なことが多く、現地ではゴミになってしまうからです。
しかも、被災地ではすでに、ガレキや水に濡れて使えなくなった「災害廃棄物」の処分に追われている最中。そこに“追加のゴミ”が届いてしまえば、負担は倍増します。

こうした背景もあり、最近は多くの自治体が、個人からの支援物資の受け入れをお断りするケースが増えています。
被災地が困った「支援物資」の例
ここからは、これまでの災害で実際に被災地に届いた「困ってしまう支援物資」の一例をご紹介します。
「もしかして、今これを送ろうとしてたかも…」
そんなものがあったとしても、大丈夫。この記事にたどり着いた今からでも、きっと一番良い形で支援できます。
古着
支援物資として、まっさきに集まってくるのが古着です。
でも、被災地ではサイズ、季節、性別、状態やにおいなど、さまざまな点でミスマッチが起きやすく、ほとんど使われないまま処分されることも多いのです。

中には洗濯していなかったり、かなり使用感のあるもの、それに何と使い古しの下着まで送られてきたケースもあります。
これら古着は、保管に困って焼却処分されたり、経費をかけて倉庫に保管された例もあるのです。
ぬいぐるみ
「子どもたちが少しでも癒されるように」という”優しい”気持ちからでしょうか。東日本大震災のときは大量に送りつけられたとのこと。けれど、被災地に届いたぬいぐるみの多くは使い古されたものばかり。

しかもぬいぐるみは好みが分かれる上に、衛生面でも不安があるため、やはり現地では処分の手間を増やしてしまうことになります。
病院で処方された残りの医薬品

「まだ残っているから誰かの役に立つかも」と思ったとしても、処方薬は他人が使うことはできません。
人によって体質や症状は異なるため、誤って服用すれば健康被害につながる恐れもあります。
だから処方薬が被災地で役に立つことはなく、必ず処分されます。
壊れたおもちゃ
壊れていたり、部品が足りなかったりするおもちゃも、被災地で困る代表格です。

たとえば、カードが1枚足りないトランプや、「石」が1枚不足したオセロなど。
これでは結局ゴミになってしまいます。
本
本もたくさん送られてくる代表ですが、とても重くてかさばるうえ、仕分けが大変です。
しかも「読みたいかどうか」は人それぞれで、ニーズに合わないことがほとんど。配布されることなく最後まで場所を取るだけになります。

千羽鶴や寄せ書き
「応援する気持ちを届けたい」という善意から送られる千羽鶴や寄せ書き。
ですが、避難所では飾る場所がないうえに、処分に困るという声も。

もちろん、嬉しく思う方もいるかもしれませんが、どう感じるかは人それぞれ。
支援として適しているかどうか、改めて考えてみる必要があります。
ごちゃ混ぜ詰め合わせセット
あれこれ詰め込んだ詰め合わせセットは、被災地に住む知り合いや肉親に個別に送る場合は良いかもしれませんが、不特定多数の人が不特定多数の人に向けて送るとなると話は別です。
中身の確認や仕分けに手間がかかりすぎて現地では負担でしかありません。

写真出典:キロクマ!より
さらに、避難所で配ろうにも中身に偏りがあると「もらえる人/もらえない人」が出てしまい、公平性の問題も出てきます。
なぜ“思いやり”がすれ違ってしまうのか
被災地のニーズは“時間・場所・人”によって違う
「これなら役に立つかも」と思っても、被災地で“今”必要とされているかどうかは、実はとても難しい問題です。
たとえば、大きな津波の後で全身ずぶ濡れになった直後の人にとっては、古着でも喜ばれるかもしれませんが、いっときすればそのニーズは満たされ、その後は新品が必要になります。
また、生鮮食品など調理が必要な食材は炊き出しができる状態になるまで使えません。
このように、必要な物資は時間の経過とともに刻々と変わっていきます。
さらに、同じ地域内でも、避難所ごとに環境や避難者の属性など様々な条件が違うため、必要なものとタイミングはバラバラだったりします。
つまり、遠く離れた場所にいる私たちが、現地のニーズをリアルタイムに把握することは至難の業なのです。
あ!そうだ、じゃあXとかで調べればわかるんじゃない!?
SNS情報をうのみにしない
最近では、災害が起きるとすぐにSNSで「〇〇が不足しています!」「△△を送ってください!」という投稿が流れてきます。
確かにSNSは即時性があり、テレビや新聞よりも早く情報が届くこともありますが、実際には情報の真偽が不明なものが大量に拡散されるのが災害時のSNSの特徴です。
支援の仕方のみならず、正確な情報を得るためにはまず自治体や公的機関、信頼できる団体の発信をチェックすることがとても大切です。
では、支援したいと思ったらどうすればいい?
支援の気持ちは被災者の負担にならないような“真に役に立つ形”で届けることがとても大切です。ここでは、個人でもできる適切な支援の方法をいくつかご紹介します。
義援金・支援金を届ける
支援の手段として、もっとも確実で、現地の状況に合わせて活用してもらえるのがお金による支援です。なによりも、お金はじゃまになりません。
ちなみに、お金による支援は「義援金」と「支援金」の2種類あるのをご存知でしょうか。
義援金
義援金は、被災者に直接分配されるお金です。
日本赤十字社や都道府県の共同募金会、被災自治体などが窓口となり、被害状況に応じて公平に配られます。
支援金
支援金は、被災地で支援活動を行うNPOや民間団体などの活動を支援するための金です。
炊き出しや物資支援、子どもや高齢者のケアなど、さまざまな活動の資金として使われます。
どちらも、現地の実情に合った支援ができる方法として、被災地からも強く支持されています。
税制を活用する「ふるさと納税」も
被災地への寄付は、確定申告をすることで税金の控除が受けられる場合があります。
中でも、「ふるさと納税」を利用すれば、実質負担2,000円で被災自治体を支援できる仕組みになっています。
「どうせなら少しでも多く届けたい」という方には、こうした制度を活用するのもおすすめです。
詳しくはこちら:ふるさと納税 災害支援寄付
災害ボランティア
物資やお金以外の支援のあり方としては災害ボランティアという方法もあります。
ただし、何も準備せずに現地へ行っても役に立てないばかりか、却って被災地の負担になってしまうことも。
現地では食事や宿泊場所が確保できない場合もあるので、基本的には「完全自己完結型」で行動できる準備が必要です。
まずは全国社会福祉協議会の災害ボランティア活動の情報提供ページで、被災地の災害ボランティアセンターの情報を確認しましょう。
詳しくはこちら→全社協 被災地支援・ボランティア情報 ボランティアのみなさんへ
それでも「物で応援したい」人へ
「お金も大事だけど、やっぱり物を届けたい」
そう感じる方には、現地のニーズに合った物資を“必要な分だけ”送る仕組みがあります。
そのひとつが、Amazon 被災地を応援 ほしいものリストです。
これは、避難所や支援団体などが「今、本当に必要な物」をAmazonのリストにまとめて公開し、支援したい人がそこから選んで購入すると、そのまま現地に届けられるという仕組みです。
これなら物資の内容も量も、現地の要望にぴったり合わせることができます。
まとめ
支援したいという気持ちは、何よりも尊いものです。
だからこそ、「本当に役に立つ形」で届けることが大切です。
思いつきで物を送る前に、一度立ち止まって、現地のニーズや正しい支援方法を確認してみませんか。
そのひと手間が、きっと被災地にとっての本当の助けになります。