この間の地震で、実家に無事を確認しようと思って電話したんだけど、全然繋がらなくてやきもきしたよ。
災害があると連絡つかなくなるって本当なんだね。
そうですね。でも災害時だからこそ、なおのこと家族など大切な人同士連絡を取ろうとするのは自然なことです。
この記事では、災害時の連絡手段の確保について解説していきます。
はじめに:災害時の通信確保について考える
大規模災害が発生すると、家族や友人と連絡が取れなくなる可能性があります。通信インフラが混乱し、電話がつながらない……そんな状況は誰にでも起こり得ます。この記事では、防災の現場と行政の両方を経験してきた筆者(防災課で鍛えた防災士)が、災害時に本当に役立つ連絡手段について、実践的な視点でお伝えします。
実際にどうなる? 通信インフラの被災と回復
通話制限と通信障害の仕組み
災害規模によっては通信設備自体にダメージを受ける場合もありますが、その他にも被災地に対する安否確認や見舞い等の電話が短時間に急増することにより、電話回線が輻輳(ふくそう)することで通信に障害が発生することがあります。

例えば、東日本大震災の際には通常時の約9倍の通信が被災地に集中したと言われます。携帯電話各社の推定では50~60倍以上とされています。
また、利用者は電話が繋がらなければ再びかけ直そうとするため、輻輳に拍車がかかります。こうなると、警察や消防などへの緊急通報などの重要通信を優先するため、電気通信事業者は通信規制を行います。緊急車両を先に通すための交通整理のようなものですね。

だから電話が繋がらなくなるのかー。
はい、でも規制の対象は一般の利用者間の回線であり、緊急通報や公衆電話は対象外です。
意外と生き残るインターネット──実例で見るLINEの有効性
音声通話が利用できなくなっても、インターネットが利用できる場合があります。
たとえば、総務省による熊本地震における情報通信の在り方に関する調査結果では、アンケートに答えたおよそ9割の人が「地震発生後でもLINEは問題なく利用できた」と回答した一方で、「固定電話が利用可能」と回答した人は5割弱にとどまりました(下図)。

また、同じくアンケートに答えた人の中には
「行政機関の中に固定電話では連絡がとれない自治体があった。」
「携帯電話に依存している割合が大きいため、特に震災直後電話がつながらなかったのは痛かった。」
とコメントした人がいた一方で、
「LINE電話はいつでも確実に利用でき、安心できた。」
という人もおり、固定電話が使用できない環境においてもインターネットが生き残るケースがあることが分かります。
災害時に使える通信手段──4つの選択肢
① LINE・SNS系アプリ(第一選択肢)
普段から使い慣れていて、グループチャットや既読機能があるLINEは、災害時にも非常に有効です。
ただし、回線が混雑する可能性を考え、予備手段を準備しておきましょう。
② 災害用伝言ダイヤル(171)
音声で伝言を録音・再生できるサービス。ネットが使えなくても、公衆電話や固定電話から利用可能。全国に分散されたシステムで運用されているため、災害時にも比較的つながりやすい仕組みです。
スマホの連絡先に「171災害用伝言ダイヤル」として登録しておくとともに、一度はためしに使ってみることを強くお勧めします。
早速やってみるね…あれ?繋がらないよ?
いつでもできるわけじゃないんだ。
利用できるのは、実際に災害が発生したときと、定められた体験利用日だけ。
体験利用日
- 毎月1日及び15日 00:00~24:00
- 正月三が日(1月1日00:00~1月3日24:00)
- 防災週間(8月30日9:00~9月5日17:00)
- 防災とボランティア週間(1月15日9:00~1月21日17:00
詳しくはこちらをごらんください:
▶️NTT東日本 災害用伝言ダイヤル(171)
③ 災害用伝言板(Web171)
これはインターネットを使って安否情報を投稿・閲覧できる電子伝言板です。
が、LINEの優位性を覆すほどのメリットが感じにくいなどの理由があり、私は個人的にはお勧めしません。あくまで補完的手段ととらえるのが現実的ではないでしょうか。
詳しくは後ほど述べます。
④ 00000JAPAN(補足的手段)
「00000JAPAN」(ファイブゼロジャパン)とは大規模災害時にキャリアが開放する無料Wi-Fiです。SSIDが「00000JAPAN」なので、そのまま愛称としても使われます。誰でも無料で、IDやパスワード入力をすることなく接続可能なので、スマホによる情報収集や連絡手段の確保に役立ちます。

携帯電話ネットワークと違って「wifi」なので、公衆Wi-Fiスポットの近くでないと使えないからね。
ただ、この「00000JAPAN」はあらゆる利用者が速やかにインターネットに接続できることを何より優先した仕様なので、セキュリティ面は充分ではありません。だからパスワードを入力しないといけないような通信(ネットバンキング、ネットショッピングなど)は避けたほうが無難。
もしセキュリティを必要とする通信を行う場合は、wifiの設定画面で「00000JAPAN」の接続を解除するのを忘れないように気をつけてください。
ちなみに、「00000」としたのは、ユーザーの端末でSSIDの一覧が表示される際、極力上位に表示されることを狙ったものです。
災害用伝言板(web171)があまりおすすめできない理由
先ほど「災害用伝言板(web171)をお勧めしない」と申し上げましたが、ここでその理由を少々述べたいと思います。
使用方法がわかりにくく、初見で使いづらい
まず実際に触ってみると分かると思いますが、画面の遷移や項目の意味が直感的にわかりにくく、習得に時間がかかることが理由としてあげられます。
例えば、災害用伝言板(web171)のトップ画面では「登録」という言葉が2種類の意味で使われているため、パッと見では「どっちがどの機能?」と迷うことになります。

言葉の使い方が統一されていない
上のTOP画面において伝言板を作成するため「伝言板の登録」を押すと次の画面に遷移しますが、ここで初めてパンくずリストに「伝言ボックス作成」という言葉が唐突に登場します。
あれ、「伝言板」じゃなかったの!「伝言ボックス」って何?

本質的な問題ではないかもしれませんが、迷う人はいるかも知れません。
今後の改善を期待したいですね。
非常時にツールの使い方で迷っている暇はない
私は自分で色々試してみましたが、率直に言って、あれこれ調べたり実際に操作してみたりして理解するまで結構な時間がかかりました。
これを非常時に初めて使用する場合は、平時と違って余計に迷いやすいことが懸念されます。これで迷っていれば、時間とスマホのバッテリー浪費になってしまいます。
インターネットが使えるのならLINEがより有効
色々と述べてきましたが、やはり決定的なのはこれです。
結局のところ、災害用伝言板(web171)も同じインターネット回線を利用しているので、インターネットが利用できる状況であればLINEなどの方が簡単で早いと思います。
音声通話と異なり、この災害用伝言板(web171)が特別に繋がりやすいというわけではありません。
じゃあどうしてこの仕組みがあるの?
本サービスの提供が開始されたのは2005年8月。当時はスマホもLINEもなく、フィーチャーフォンによる音声通信とキャリアメールしかなかったので、提供開始当時は有効に機能したと思われます。
しかしながら今やスマホが広く普及し、LINEを始めとする便利なアプリがあります。
そして高齢者でも非常に多くの人々がスマホを所有する時代となりました。
下図は、2024年1月時点における、60代以上の年代におけるスマホ・ケータイの所有率です。

なるほど、LINEが優位なことはわかった。
でも、うちのおばあちゃんち、いまだに固定電話しかないよ。
どうすればいいの?
そんなときこそ、災害用伝言ダイヤルの出番です。
すでに述べた通り「171」は通話規制の影響は受けずに利用できますから。
おばあちゃんと「171」の使い方を練習しておきましょうね。
実際に触ってみることでその存在自体を記憶できます。
電気通信事業者が行う支援措置を知っておこう
通信は重要な社会インフラですから、電気通信事業者(電話や携帯等の通信サービスを提供する会社)各社は災害時でも通信を確保できるよう普段から準備をし、発災後は様々な形で被災地を支援します。
例えば平成30年北海道胆振東部地震では、NTT東日本を始めとする電気通信事業社が次のような対応を行い、被災者を支援しました。
- 災害用伝言サービスの提供
- 無料充電サービス
- Wi-Fiスポット無料開放
- 公衆電話の無料化(硬貨を入れないと作動しないが、通話後返却される)
- 通信料金の減免(災害救助法適用地域などを対象)
- 携帯各社のデータ通信容量制限解除(同上)
総務省 平成30年北海道胆振東部地震 通信・放送の被害状況より
このような支援措置の存在を知っておけば、いざというときにも慌てずに済みます。
結論──何を備え、何を捨てるか
LINEを使える状態を平時から整えておこう
家族や大切な人とは、災害時にLINEで連絡を取ると決めておくのが現実的です。
災害伝言ダイヤルの使い方だけは覚えておく
ネットが使えない場合や、スマホを使わない・使えない人との連絡に備えて、「171」の使い方はぜひ一度、試してみてください。
Web171は、知っておく程度でいい。時間を割くほどではない
知識として知っておく程度で十分。繰り返しになりますが、LINEの優位性を覆すものではないと思われます。
情報の海に溺れないために──必要なのは“整理された備え”
いざというとき、あなたを守るのは“完璧な準備”ではなく、“迷わない選択肢”です。
通信の備えも“引き算の防災”が基本です。
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