どうも!Mogera47です!
自衛隊で15年、防災航空隊で10年、自治体の防災課で2年、と災害対策一筋でやってきた防災士です。
山岳で遭難した場合に救助してもらう場合にありがちな質問と回答を集めてみました。参考にしていただければと思います。
山岳遭難と防災ヘリによる救助については、こちらで詳しくお伝えしているので、よかったらご覧ください。
防災ヘリの現場から【第1部】低山こそ危ない?道迷いから学ぶ登山の心得
防災ヘリの現場から【第2部】救助は空から? 防災ヘリの出動条件と限界を知ろう
防災ヘリの現場から【第3部】道迷い・遭難を防ぐ!今日からできる登山の準備と心構え
- Q1 救助にお金はかかるの?
- Q2 運航にかかる経費って、やっぱり燃料代なの?
- Q3 ヘリを呼ぶかどうかは自分で決めるの?
- Q4 山の中で遭難して救助が必要な場合はどこに連絡すればいいの?110番?それとも119番?
- Q5 自衛隊が救助に来ることもあるの?
- Q6 海上保安庁が救助に来ることはあるの?
- Q7 どのタイミングで救助を要請したら良いの?
- Q8 日没を迎えてヘリが帰ってしまったら、今度は地上隊が助けに来てくれるんですよね?
- Q9 何か、大ごとになるのは気が引けるんですよね。特に自分のせいでヘリが来るというのは何だか。
- Q10 こんなことでヘリを呼ぶな」と怒られないか心配です。
- Q11 救助要請をしてからヘリが救助活動を開始するまでどれくらいの時間がかかるものなの?
- Q12 でも、救急車みたいな全国平均みたいなものくらいあるでしょう?
- Q13 最初から燃料を満タンに入れておけば活動可能時間も長くなるのでは?
- Q14 天気がどうだと飛行できないの?旅客機は雲の中も飛行することがあるけど、防災ヘリはどうなの?
- Q15 遭難時に持っておくべきものは?
- Q16 救助後にやるべきことってあるの?やっぱりお礼参りとかした方がいいの?
- Q17 救助されたら、どこに連れて行かれるの?
- 最後に
Q1 救助にお金はかかるの?
A 公的な機関による救助の場合は原則として無償です。その点は安心して救助を要請してください。ただし、例外的に埼玉県だけは(一部山岳地域によって)ヘリによる救助に手数料がかかります。
Q2 運航にかかる経費って、やっぱり燃料代なの?
A いいえ、違います。燃料代は運航経費のうちのほんの一部に過ぎません。下記は、ある自治体におけるある年度の消防・防災ヘリの運航経費の内訳を示したものですが、ご覧になって分かる通り、この内で最も大きな部分を締めているのは運航管理委託料です。
項目 | 金額(千円) |
消防防災ヘリコプター運航管理等委託料(※) | 124,631 |
消防防災ヘリコプター等燃料費 | 24,800 |
消防防災ヘリコプター修繕費・部品費 | 19,350 |
消防防災ヘリコプター航空保険料 | 19,862 |
ヘリテレ(機上設備)、無線機の定期保守 | 8,129 |
航空隊装備品等整備・点検 | 3,761 |
航空隊訓練・各種研修会等参加費 | 2,832 |
航空隊員派遣元消防局への人件費助成 | 7,778 |
その他 | 1,369 |
合計 | 212,512 |
多くの県では運航を民間会社に委託しています。「運航管理等委託料」とは、こうした会社に委託するために発生する経費です。一方、政令指定都市と一部の県が運航する消防・防災ヘリは、当該自治体の職員が自ら運航しているので、委託料は発生しません。代わりに職員の人件費がかかります。因みに、自衛隊、警察及び海上保安庁は、その任務の特性から運航を民間業者に委託することはありません。そういう意味では、運航を民間会社に委託するのは防災ヘリの特殊なところです。
Q3 ヘリを呼ぶかどうかは自分で決めるの?
A 違います。要救助者は、自力下山ができないと判断した時点で119番通報をするのですが、防災ヘリによる救助の要否は、その通報を受けた消防本部(通信指令室)で判断するので要救助者が自ら「ヘリをお願いします」ということはありません。
Q4 山の中で遭難して救助が必要な場合はどこに連絡すればいいの?110番?それとも119番?
A どちらでも構いませんが、怪我をしていたら基本的には119番に通報した方が良いかもしれませんね。防災ヘリには救助・救急のプロである消防吏員が乗務しています。もちろん、110番でも救助はしてもらえます。なお、いずれかに通報しても、多くの場合は警察航空隊と防災航空隊は情報共有をすることが多いため、一方が諸般の事情で対応できないとなれば他方に任務を受け持ってもらうという連携をすることがあります。
Q5 自衛隊が救助に来ることもあるの?

A 自衛隊が救助に来るというのは「災害派遣」という枠組みが発動した場合に限定されます。様々な事情によって都道府県の防災ヘリが対応できない場合、都道府県知事が自衛隊に要請します。しかし、山岳救助で自衛隊に災害派遣を要請するのは遭難者が多数であるなど極めて稀なケースです。例えば最近では平成26年の御嶽山噴火に伴う捜索救助のために災害派遣が要請されました。
Q6 海上保安庁が救助に来ることはあるの?
A ありません。海上保安庁の主な活動範囲は海です。なお、海での遭難は118番に通報します。

Q7 どのタイミングで救助を要請したら良いの?
A 日没時刻も考慮した上で自力下山が無理だと判断したら、直ちに救助要請してください。ヘリは日没後は救助活動ができなくなるため、遅くなればなるほど、現場での活動可能時間が短くなって救助が困難化します。そして救助ヘリは活動途中であっても、日没を迎えたら二次災害防止のためやむを得ず任務を放棄して帰投します。そうなると要救助者は必然的に野宿を強いられます。すると今度は低体温症のリスクにさらされます。さらに、怪我や疾患によっては治療の遅れによって予後が悪化することもありえます。なので、遭難を自覚したら速やかに救助を要請することが重要です。
Q8 日没を迎えてヘリが帰ってしまったら、今度は地上隊が助けに来てくれるんですよね?
A 地上隊が助けに来られるかどうかはわかりません。なぜなら、地上隊の力だけでは救助が困難だからヘリを要請しているわけですから。もし運良く地上隊が救助のためにどうにかしてあなたのところに到着したとしても、次は夜間の徒手搬送ですから、地上隊にとってはとてつもない負担とリスクを与えることになりますね。普段から痩せておいたほうが良いかも…。
Q9 何か、大ごとになるのは気が引けるんですよね。特に自分のせいでヘリが来るというのは何だか。
A 分かります、その気持。でもヘリでなければ、地上の隊員が徒手で搬送することになるので、かえって地上隊に大きな負担をかけてしまいます。どうしようもない事態に陥ってしまったのであれば、もう割り切ってください。そして無事に帰宅できたら、次は事故防止のために何ができるかゆっくり反省して同じことを繰り返さないようにすればいいだけです。
Q10 こんなことでヘリを呼ぶな」と怒られないか心配です。
A 確かに最近は救急車の不適正利用が問題視されているので、そういう観点も大事ですね。しかし私が見てきた現場では、やむにやまれず救助要請をしてきた人ばかりで、タクシー代わりに要請したという人はいませんでした。それに、救助に携わる隊員は皆、人の命を救うことに生き甲斐を感じている、士気の高い人達ばかりなので、よほどのことがない限り怒られる心配は、ほとんどありませんよ。まあ、「自力で下山するのダルいから」は、さすがにやはり適切とは言えませんね。だって命をかけて救助に出場しているわけですから。
Q11 救助要請をしてからヘリが救助活動を開始するまでどれくらいの時間がかかるものなの?
A 一概に言えません。あなたのいる場所の特定が簡単ならその分早くなります。119番通報をして、消防本部でヘリが必要と判断したときに初めて防災ヘリを要請するわけですから、そのラグタイムも発生します。また、ヘリは救急車のように出動指令があったらすぐにヘリに飛び乗って離陸、というわけにはいきません。事前に行程を組み立て、現場までの所要時間を計算し、必要な燃料を見積もり、現場での活動可能時間を計算し、重量重心を計算し、搭乗してエンジンを始動した後は離陸前に点検を行ったりと、出発前には様々な準備が必要です。だから要請から離陸まで数十分かかることすらあります。
救助要請をしたらすぐに駆けつけるとは限らないので、そこはご了承ください。
Q12 でも、救急車みたいな全国平均みたいなものくらいあるでしょう?
A そういう統計はとっていないのでありませんし、ばらつきがすごく大きいので平均値に意味はないかもしれません。
Q13 最初から燃料を満タンに入れておけば活動可能時間も長くなるのでは?
A 自動車と異なり、ヘリコプターが燃料を満タンにすることはほとんどありません。空を飛ぶ乗り物なので、重いことはすなわちリスクそのもの、つまり事故の原因になるため燃料は活動に必要な分と、着陸まで持ち帰ってくる「予備燃料」を足した分だけを入れておく「待機燃料」にセットしておくのが普通です。「予備燃料」というのは、例えば思いがけず天候が悪化した場合に、悪天候域を回避するために迂回するためなど、不測事態に備えるための燃料です。
事案によっては「待機燃料」にさらに必要となる分を離陸前に追加することもあります。いずれにせよ、自動車と違って燃料については非常にシビアに取り扱うのが空を飛ぶ乗り物の宿命です。
Q14 天気がどうだと飛行できないの?旅客機は雲の中も飛行することがあるけど、防災ヘリはどうなの?
A 視程(空気の透明度)が十分になければ活動できません。防災ヘリは「有視界飛行方式」といって、目で見て障害物を避けながら飛行するので、視程が死活的に重要です。つまり、雲、霧、雨、雪などで視程が悪いときは防災ヘリは活動できません。目安としては視程が5kmを切るようだと危なくて飛ばない方が良いと判断します。
こちらもご覧ください:
防災ヘリの現場から【第2部】救助は空から? 防災ヘリの出動条件と限界を知ろう
Q15 遭難時に持っておくべきものは?
A スマホ満充電にしておくことはもちろん、、モバイルバッテリー、紙の地図+コンパス(方位磁針)をスマホが使えなくなった場合に備えて準備しておきましょう。あと、行動食と飲料水、雨具、ヘッドライトを準備しておくと良いです。詳しくはこちらをご覧ください:
防災ヘリの現場から【第3部】道迷い・遭難を防ぐ!今日からできる登山の準備と心構え
Q16 救助後にやるべきことってあるの?やっぱりお礼参りとかした方がいいの?
A 必要ありません。消防、警察、防災航空隊などの救助機関は救助をするのが当然という士気の高い隊員で構成されています。そしてそれは言い方は悪いですが、それは救助機関の「日常」です。だからお礼が無くても別になんとも思いません。しかしたまに御礼状が届いたときは、全員に回覧するし、そういうフィードバックがあれば素直に嬉しいです。また「以前救助して頂いた○○です」などと航空隊を訪れてくださる方もいますが、これもやはり嬉しいものです。人間ですからね。ただ、もしお礼参りをするのであれば、防災航空隊だけではなく、消防本部とか警察署など、関係する機関をもれなくも押さえておいたほうが良いと思います。
Q17 救助されたら、どこに連れて行かれるの?
A 怪我をしていれば最終的に最寄りの病院に搬送されます。それは救急車で搬送される場合と概ね同じです。どこかの場外離着陸場で救急車に引き継がれる場合もあります。どこの病院に搬送されるかは、要救助者の容態、病院までの所要時間や受け入れ可否など様々な要素で搬送先が決まっていきます。行きつけの病院に行けるかどうかは状況によります。
最後に
山岳遭難と防災ヘリについては、こちらの記事もご覧ください:
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防災ヘリの現場から【第2部】救助は空から? 防災ヘリの出動条件と限界を知ろう
防災ヘリの現場から【第3部】道迷い・遭難を防ぐ!今日からできる登山の準備と心構え