はじめに
万が一に備えること。それは決して臆病なことではありません。山を楽しむためにこそ、「備え」が必要なのです。
「防災ヘリの現場から」と題してシリーズでお送りするこの【第3部】では、登山者が最低限知っておくべき準備、装備、そして行動のポイントについて、現場経験をもとに整理します。特に初心者や高齢の登山者にも実践しやすい内容にしています。
前の記事:
▶️防災ヘリの現場から【第2部】救助は空から? 防災ヘリの出動条件と限界を知ろう
登山前にやるべき3つの準備
残念ながら、「これさえあれば遭難しない」という特効薬はありませんが、【第1部】で述べた遭難原因のトップである道迷いを防ぐためには、次のような点に留意するだけで、遭難の危険をかなり減らせると思いますよ。
▶️防災ヘリの現場から【第1部】低山こそ危ない?道迷いから学ぶ登山の心得
十分に地形と道程を予習する
最近はネットでいくらでも情報収集はできます。とくにYAMAPでは地図だけではなく間違えやすい分岐、所要時間など多くのデータが蓄積されているので、こうしたサイトを利用して十分に予習をしておきましょう。
天気予報を十分確認
宿泊を伴う場合はもちろん、日帰り登山であっても必ず天気予報を確認してください。
そして天気に応じた準備をしておくのも大事ですが、悪天候が予想されるのであれば山行を諦めて別の日にするというのは勇気ある良好な判断です。【第2部】でも述べた通り、遭難したときの救助も考慮しましょう。
登山はつまるところレジャーであって、使命ではないのですから命をかけてまで行うことではありません。
行動中に気を付けること!
道を間違えたと気づいたらすぐに引き返す

「道に迷ったかも」と認識したら、まずは落ち着く。
焦って闇雲に歩き続けてはいけません。
しんどくても元の道に戻ることを考えましょう。
そしてくどいようですが道に迷っても絶対に沢に降りてはいけません。
むしろ尾根に向かって登り返しましょう。
沢に降りたが最後、気づいたときには体力を使い果たしてそこで行動不能に陥ります。

遭難を自覚したら速やかに救助要請を
「自分は遭難した」と認めるのはつらいことです。
でも、葛藤している時点で、すでに冷静さを失い始めているかもしれません。
現実を直視する勇気が、生き延びるカギです。
ここで冷静を取り戻すかどうかが生死を分ける重要な分岐。
日没時刻や現在地を考えて、安全に下山できる見通しがなければ、潔く救助を呼んでください。
絶対に外せない 遭難した後に役立つ7つの準備
次は、遭難してしまった後に役に立つ7つの備えについて見ていきます。
①スマホ満充電&モバイルバッテリー
遭難した場合は特に通信量が多くなるため電池を消耗します。
遭難時は無駄な通信を控え、生還に必要な通信だけに限定してください。
遭難が長期に及ぶ場合に備え、モバイルバッテリーがあると良いです。
②スマホの脱落紛失防止
ここまで述べてきた通り、今やスマホは「命綱」。
もし山中でスマホを落下させて破損したり紛失したりすると、街中で同じことになった場合よりもずっと深刻です。
だから行動中は首から下げたり、ストラップでリュックサックに固縛するなどして脱落防止をしておくと良いです。
③紙の地図+コンパス(方位磁針)
スマホが使えなくなった場合に備えて準備しておきます。
ただし、普段から紙の地図の読み方に熟達しておくことも重要です。
④行動食&飲料水
キャンディ、チョコレート、羊羹、カロリーメイトなどの非常食(行動食)と非常用の飲料水を準備しておきましょう。
ただし、非常食は遭難した当日はまだ手を付けてはいけません。
この状況がいつまで継続するかわからないからです。だから非常食は翌日から少しずつ消費していきます。
⑤登山計画を周知しておく
登山届を提出したり、家族や知人に行き先を告げておいたりすれば、自分で連絡が取れなくなった場合にとても有効です。
「予定時間になっても帰宅しない」
となれば家族が捜索願を届け出てくれるでしょう。
そのことを予め話し合っておくことも大事です。
登山届は、警察署や登山口にある提出箱のほか、最近ではコンビニのコピー機やインターネットからでも提出できます。YAMAPアプリを活用すれば、簡単に作成・提出できる仕組みも整ってきていますよ。
▶️YAMAPヘルプセンター 登山計画を登山届として提出できる?(オンライン提出)
遭難者にとっては、登山計画を家族らに知らせておいたことにより、救助を信じ続けることができたという事例もあります。
詳しくはこちらをご覧ください:
▶️【防災本レビュー】「生還 山岳遭難からの救出」(羽根田治)-7人の生存者が語る“本当に必要な備え”とは?
遭難時に最も大事なことは「確固たる生への執念」であるというのはよく言われることです。登山計画を誰かに知らせておくことは、直接的・実利的なメリットだけではなく、こうした効能もあるのです。
だから私は要請の電話で「家族からの通報」との情報を聞くと、要救助者がちゃんと家族と情報共有しておいたことがうまく機能した、と解釈します。
⑥雨具(レインウェア)
山の天気は変わりやすいので遭難にかかわらず準備しておきたいものです。またレインウェアはビバーク時の防寒着としても役に立ちます。
⑦ヘッドライト
もし道に迷って暗闇になったら行動不能に陥ります。スマホにもライトの機能はありますが、両手をフリーにできて、しかもスマホの電池を節約するためにはヘッドライトが良いでしょう。
モゲラからのメッセージ:山は楽しい。でも準備が命を分ける
【第2部】で述べた通り、ヘリは天気が悪ければ飛行できません。
少々の雨くらいなら何とかなりますが、雲が低かったり山にくっついているような環境では現場に入っていくことができないことも知っておいてください。
そもそも天気の悪いときに山に入ること自体、リスクが増えるだけなのでお勧めしません。だから山に入る前には天気予報を十分確認しておきましょう。
また、多くの消防防災航空隊のヘリは、基本的には日没後は救助活動をしません。
行動には余裕を持って、事前に綿密な行動計画を立ててください。これは、現場で苦労してきた立場からの心からのお願いです。
おわりに
ここまで読んでくれて本当にありがとうございました!
このシリーズが、あなたの登山をもっと安全で楽しいものにするヒントになったなら、私もとても嬉しいです。
今日の小さな準備が、未来のあなたを守ってくれますように──。
最初から読む:
▶️【第1部】低山こそ危ない?道迷いから学ぶ登山の心得
▶️元防災ヘリ機長が全てお答え!防災ヘリによる山岳救助の疑問と回答!
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