防災ヘリ

防災ヘリの現場から【第2部】救助は空から? 防災ヘリの出動条件と限界を知ろう

はじめに

いざというとき、防災ヘリが救助に来てくれる—たしかに多くの人々にとって大変心強い存在かもしれません。けれど実際には、すぐに助けてもらえるわけではないし、多くの制約があることも知っていただきたいのです。

シリーズでお送りしている「防災ヘリの現場から」の【第2部】では、防災ヘリの出動条件や通報の仕方、救助の実態と限界について、空から現場を支えてきた経験をもとに解説します。

▶️第1部はこちら:防災ヘリの現場から【第1部】低山こそ危ない?道迷いから学ぶ登山の心得

都道府県の防災ヘリコプターとは

まずは「防災ヘリコプター」について、ご存じない方も多いでしょうから改めて紹介します。筆者も防災ヘリコプターの操縦士として長らく活動してきました。

多くの都道府県(沖縄県を除く)には、市町村の消防を支援するための「防災ヘリコプター」が配備されていて、山岳での遭難者救助を始め、林野火災などに対する空中消火を行っています。

(図:全国の消防・防災ヘリの配備状況)

全国航空消防防災協議会のホームページより、全国の防災ヘリ配備状況
全国航空消防防災協議会HPより

防災の責任は市町村

地域の「消防」は市町村が責任を負っています(消防組織法第6条)。

【消防組織法】 (市町村の消防に関する責任) 第6条 市町村は、当該市町村の区域における消防を十分に果たすべき責任を有する。

そうはいっても、市町村の消防力だけでは対応できない事案もあります。例えばアクセスの悪い山中での遭難。地上隊が現場まで徒歩で移動し、救助活動をして、その後要救助者を徒手で搬送するとすれば大変な時間と労力がかかります。怪我の状態によっては、受傷から治療開始までの時間が要救助者の生死を分けることもあります。

そんなときこそ、防災ヘリの出番です。

消防本部では、地上隊だけでは救助できないと判断した場合、都道府県の防災ヘリに出動を要請します。

ホイストで要救助者を釣り上げる防災ヘリ

因みに、もし遭難者が110番通報で救助を求めた場合は、当地を管轄する警察署が都道府県警察のヘリに出動を要請することになります。この際警察署が同様に「地上隊だけでは対応不能」と判断したときにヘリ要請の要否を判断するのです。

ここまで読んでくれば分かる通り、救助要請で通報者が自ら「防災ヘリ/県警ヘリによる救助を要請する」ことはできません

これら救助ヘリは、当地を管轄する消防本部または警察署からの要請に基づいて出場します。

ヘリ出動までの流れ

まず、要救助者または通りがかった人が119番か110番に通報します。

119番に通報すると、基本的には当地を管轄する消防本部の通信指令課に繋がるようになっています。近年では、発信してきた携帯電話の概略の位置をある程度把握できるようになっているので、救助機関の立場からも通報者の位置特定は本当に楽になりました。この点は、110番に通報してもほぼ同じです。

また、通報者自らが自分のいる場所の緯度経度を通信指令室に連絡してくれればさらに誤差が少なくなるため、場所の特定にはとても有利です。

緯度経度については、別記事で紹介予定です。

ヘリコプターの限界

救助ヘリコプタには様々な限界、制約事項があります。これら制約は救助される側としては把握しておいて損はないでしょう。

日没後は活動しない

ヘリコプターによる救助が可能なのは日中、つまり太陽が出ている時間だけ。

日没後はヘリの救助はできません。多くの航空隊では日没前に救助活等を切り上げて現場を離脱するように内規を定めています。それは夜間は山岳地は障害物(例:送電線など)が視認できなくて大変危険だからです。要するに二次災害防止のためですね。

天気が悪いと活動できない

雲が低かったり、雨・雪・もやで視程(空気の透明度)が悪ければヘリは活動できません。防災ヘリ(県警ヘリも)は「有視界飛行方式」といって目視で外景を見ながら飛行するからです。

悪天候をついて運航すれば事故の危険性があるからですね。二次災害は絶対に防がなくてはなりません。

活動可能時間に限界がある

燃料の限界があるため、捜索と救助に費やせる時間にも自ずと限界があります。その時間は搭載燃料や基地からの距離などによって大きく差があるので一概に言えませんが、何時間も現場に滞在できるということはなく、数十分から1時間などが一般的なところです。

さらに、天候の悪化や日没までの残時間という制約が加算されます。なお、燃料を増やして活動可能時間を延伸しようとすると、重くなるのでそれ自体がリスクになります。

119番と110番の違い

都道府県警察航空隊も山岳救助を行う

どちらでもほとんどの場合大差ありません。ただし、どちらかといえば怪我をしていたら基本的には119番に通報した方が良いかもしれませんね。防災ヘリには救助・救急のプロである消防吏員が乗務しています。

もちろん、110番でも救助はしてもらえます。なお、いずれかに通報しても、多くの場合は警察航空隊と防災航空隊は情報共有をすることが多いため、一方が諸般の事情で対応できないとなれば他方に任務を受け持ってもらうという連携をすることがあります。

スマホGPSや登山アプリの使用がカギ

道に迷わないようにしたり、怪我をしないように行動に余裕を持つということが最も重要なのは言うまでもないことですが、万一に備えて自分の位置を把握し通報できるように準備しておくこともまた重要です。

万一怪我などをして行動不能になったときは、こうしたアプリに表示されている「緯度経度」を救助機関に伝えれば、通信指令室を通じてその情報が防災ヘリに伝達されます。

以下に、便利なアプリを紹介するので、インストールして山行前に使用方法を確認しておけば、いざというときの強い味方になるでしょう。

Geographica(ジオグラフィカ)

Geographicaはキャッシュ型オフラインGPSアプリで、ネットが使用できないところでも携帯電話が圏外でも携帯型GPSとして現在位置を把握できる現在位置を把握するために使用します。

「キャッシュ」というのは、ネットを使って読み込んだページの一部をスマホやPC内に記憶させておいて、次回の表示速度を速くするための仕組みです。これにより、ネットが使用できない場所でも地図データを表示できるようになります。自宅を出発する前に予習としてスマホで行程確認をしておけばそれによってキャッシュを蓄積できますから、山行中に地図として利用できます。

android版:Geographica
iOS版:Geographica

YAMAP

YAMAPも、ネットの繋がらない場所でもGPSが使用できれば現在位置を把握できます。
無料版と有料版があり、いずれも山行前に地図をダウンロードしておく必要があります。無料版でも登山地図をダウンロードして閲覧することができますが、一度にスマホ内に保存しておける地図は2枚までという制限があります。

android版:YAMAP
iOS版:YAMAP

おわりに

次回はいよいよ、登山時に必要な備えと、命を守る装備・行動のポイントについてお話しします。

▶️続きはこちら:防災ヘリの現場から【第3部】道迷い・遭難を防ぐ!今日からできる登山の準備と心構え

▶️山のトラブルに備える!遭難と救助のリアルな疑問集

ABOUT ME
もげら47
自衛隊で大型輸送ヘリの機長として15年勤務。その間、震災や林野火災など数多くの災害派遣に出動。その後消防防災航空隊に転職し、消防防災ヘリの機長として、10年以上にわたり山岳救助、空中消火活動などに従事。 次いで2年間地方自治体の防災課で防災関連の事務事業を推進するなど、防災一筋の人生。 現在はこうした経験を活かし、防災士ブロガーとして防災関連の情報を発信しています。 【保有資格】 ・防災士 ・事業用操縦士(回転翼機+飛行機) ・航空無線通信士 ・乙種第4類危険物取扱者 ・他