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【防災本レビュー】「生還 山岳遭難からの救出」(羽根田治)-7人の生存者が語る“本当に必要な備え”とは?

どうも!もげら47です!
自衛隊で15年、防災航空隊で10年、自治体の防災課で2年、と防災一筋でやってきた防災士です。

山に登るすべての人に読んでほしい一冊

登山中の遭難――ニュースではよく目にするけれど、実際に自分が当事者になることなんて、どこか他人事に思っていませんか?

羽根田治著『生還 山岳遭難からの救出』は、山岳遭難を実際に体験し、生還を果たした7人の証言をもとに構成されたノンフィクション。山を趣味にする人、これから登ってみようと思っている人、全ての登山者にとって学びの多い一冊です。

遭難の原因、その本質

この本で繰り返し語られるのは、「滑落や転落のようなアクシデントよりも、実際には“道迷い”が多い」という事実。そして、迷ったことを認めきれず、無駄に動き回って状況を悪化させてしまう心理。

私も、防災ヘリの活動中に何度もこうした「動き回る遭難者」に遭遇してきました。良かれと思って残り少ない体力を浪費し「見つかりやすい場所」を探して移動してしまう方がいますが、それは状況によっては逆効果です。

上空からの捜索は、まるで地図上に色を塗るように捜索範囲を少しずつ塗りつぶしていく方法で行われます。

一度捜索して発見できなかったところは「いない」ものとして扱うため、動き回られると見つけにくくなるのです。

ヘリが捜索を開始する前だったら、上空が十分開けた場所に移動しておくのは発見に役立ちます。

それでも“生還”できた理由とは?

本書で印象的だったのは、最終章「追記-七つのケースの教訓より」の一節:

「登山計画を家族らに知らせておいたことにより、彼らは信じ続けることができた…(中略)…こうして待っている間にも、誰かが自分を助け出そうと尽力してくれているはずだということを。その支えなくして耐え続けることはできなかったであろう。」

確固たる生への執念」があったからこそ、生き延びることができた。これは精神論だけではありません。「誰かが探してくれている」という確信が、遭難者の心を支えるのです。そのためにも、登山計画は事前に誰かに伝えておくことが大切なのです。

「非常時」に備える装備のリアリティ

また、著者は次のようにも述べています:

「たとえ日帰りハイキングであれ、火(ライター、マッチなど)とストーブ、それに非常食とツェルトは最低限持つべきであろう」

この点も非常に重要です。短時間のつもりの登山であっても、予期せぬトラブルは起きるもの。特に単独行の場合は、誰にも頼れないという現実を忘れてはいけません。

遭難したら、「動かず、待つ」

そして、最後に何より重要なのが「遭難したら、動かずに救助を待つこと」です。

冷静に状況を判断し、自分がどの時点で「遭難者」になったかを受け入れるには、それ相応の経験と知識が必要になります。ただし、それはこのような書籍や体験記を通じて学ぶことができます。本書はそのための恰好の教材と言えるでしょう。

まとめ|あなたが山に入る前に、読むべき一冊

生還 山岳遭難からの救出』は、登山者にとっての“いのちの教科書”ともいえる存在。登山を安全に楽しむために、また、いざという時の備えとして、ぜひ読んでおいてほしい一冊です。

あわせて読みたい:
▶️防災ヘリの現場から【第1部】低山こそ危ない?道迷いから学ぶ登山の心得
▶️防災ヘリの現場から【第2部】救助は空から? 防災ヘリの出動条件と限界を知ろう
▶️防災ヘリの現場から【第3部】道迷い・遭難を防ぐ!今日からできる登山の準備と心構え

※この記事で使用している書影は、著作権法第32条に基づき書籍紹介の目的で掲載しています。著作権は著者および出版社に帰属します。

ABOUT ME
もげら47
自衛隊で大型輸送ヘリの機長として15年勤務。その間、震災や林野火災など数多くの災害派遣に出動。その後消防防災航空隊に転職し、消防防災ヘリの機長として、10年以上にわたり山岳救助、空中消火活動などに従事。 次いで2年間地方自治体の防災課で防災関連の事務事業を推進するなど、防災一筋の人生。 現在はこうした経験を活かし、防災士ブロガーとして防災関連の情報を発信しています。 【保有資格】 ・防災士 ・事業用操縦士(回転翼機+飛行機) ・航空無線通信士 ・乙種第4類危険物取扱者 ・他
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