どうも!もげら47です!
自衛隊で15年、防災航空隊で10年、自治体の防災課で2年、と防災一筋でやってきた防災士です。
登山の魅力は、日常から離れた自然の中に身を置くことにあります。
しかし、その一歩が“遭難”に繋がることもある──そうした現実を、私たちはどこまで知っているでしょうか。
今回ご紹介する本は、実際の山岳遭難をケーススタディとして学べる一冊
羽根田治さんの「山はおそろしい(必ず生きて帰る!事故から学ぶ山岳遭難)』です。
書籍情報
- 題 名:山はおそろしい(必ず生きて帰る!事故から学ぶ山岳遭難)
- 著 者:羽根田 治
- 出版社 : 幻冬舎
- 発売日 : 2022/5/25
概要
「山はおそろしい(必ず生きて帰る!事故から学ぶ山岳遭難)」は、登山中に実際に起きた遭難事故をもとに、「どうすれば防げたのか」を考えさせるケーススタディ集です。
著者は、山岳遭難ルポで定評のある羽根田治さん。
本書では、比較的最近発生した事例を中心に取り上げており、登山を趣味とする人々が明日にでも直面しそうな事故が数多く紹介されています。
特徴的なのは、遭難の要因を「自然」「無知」「行動」「人間」の4つに分類し、それぞれに沿って事例を提示している点です。
たとえば「自然」では、夜中にクマがテントを襲撃した話、「無知」では、軽装で厳冬の富士山に登った初心者を巡るエピソードなど。
そして、どのケースも当事者へのインタビューや検証をもとにしたリアルな描写で綴られており、読者に他人事では済まされない緊張感を与えてくれます。
さらに特筆すべきは、遭難そのものだけでなく、その後に起きた二次被害や社会的反応(ネットでのバッシング、風評、盗難など)にまで踏み込んでいること。
単なる「山での失敗談」にとどまらず、登山という行為が抱える多面的なリスクを、立体的に伝えてくれる一冊です。
読んで感じたこと
自分にも起こり得る
読み進めながら、私は何度も「これは自分にも起こり得た」と感じました。
特に、夜中にテントを破ってクマが襲撃してきたという事例には背筋が凍りました。
というのは、私はバイクが好きで若い頃からキャンプツーリングを何度もしてきたのですが、恥ずかしながらクマのことなど全く心配していなかったのです。
本当にのんきなものです。
食べ残の生ゴミもテントの外に置きっぱなしにするなど本当に隙だらけでしたが、今思えば無事だったのが不思議なくらいです。
無知の危険
厳冬期の富士山で、装備も知識もない初心者を救助した二人の若い登山者の話も心に残りました。
命の危険があると確信し、当の本人が無関心であるにも関わらず、懸命に下山させたという行動には敬意を覚えます。最近は外国人観光客による無謀な富士登山が問題になっていますが、この話はその実情を象徴しているように思えました。「知らない」ということが、いかに恐ろしいか──それを突きつけられた気がします。
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偶発事故のリスク
もうひとつ印象深かったのが、登山中に偶然転落してきた男性にぶつかられ、大怪我を負った女性の話。悪天候で視界が悪いなか、偶発的に起きた事故でしたが、こうした「誰も悪くないけれど命に関わる事故」が起きうることも、山の現実なのだと痛感させられました。
確証バイアスによる遭難
読みながら、私自身のかつての危険な経験を思い出していました。
恥をしのんで正直に告白しますと、私は当時小学生だったウチのこども二人を連れて山歩きに出かけた際、道に迷ったことがあります。それも2回。
いずれも幸い大事には至りませんでしたが、今思えばあの時の行動は、遭難者がよくやってしまう“お決まりのコース”をそのままなぞっていたと反省しています。
「変だな」と思いつつ藪をこぎ、断崖を下る──。
冷静に考えればすぐ引き返すべきなのに、「きっと大丈夫」「間違っていないはず」と自分に言い聞かせて進んでしまう。そう、これは“確証バイアス”という人間の心理が作用していたのです。それも小学生の子ども二人をリスクに晒すという失敗を犯しました。
そのとおり、やっぱり「山はおそろしい」
山におけるリスクとは、自然の脅威だけではありません。
無知、油断、慢心、他人への過信、善意ゆえの判断…そうした“人間の性質”こそが、危険を引き寄せる大きな要因なのだと、あらためて痛感しました。
読者へのメッセージ
この本を特に読んでほしいのは、「登山は好きだけど、遭難のことはあまり考えたことがない」という人々です。
事故の多くは、不注意や不運だけではなく、「ほんの少しの知識のなさ」や「ちょっとした判断の迷い」から生じています。
そして、それらは誰にでも起こりえます。
だからこそ、私たちは他人の遭難を「かわいそう」と消費するのではなく、そこから学ばせてもらう姿勢が必要なのだと思います。
羽根田さんの本に共通して言えることですが、どれも教訓を押し付けるような書き方ではなく、むしろ当事者の声に耳を傾け、冷静に事実を描き出すことで読者に「自分ならどうするか」と考えさせる構成になっています。
まとめ
「山はおそろしい」は、他人の遭難を通じて自分の命を守るヒントを得られる本です。
登山に慣れてくると、どうしても油断や慢心が顔を出します。
ですが、山は自然の力だけでなく、「人間の思い込みや過信」にも容赦しません。
「自分は大丈夫」と思わず、しっかりと知識と備えを持っていただきたいと切に願います。
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