防災本の紹介

【防災本レビュー】『笑う、避難所』──支援されるだけでは終わらない、ある自主避難所の奇跡

被災した人が、他の被災者を支援する──。
そんなことが可能なのか?と疑問に思うかもしれません。

しかし本書「笑う、避難所」は、それを現実にやってのけた避難所の記録です。
しかも、そこは行政の支援が届かない「自主避難所」。避難者たちは物資も人手も自分たちでなんとかするしかない状況でした。

本記事では、元・自衛隊で災害派遣も経験してきた防災の専門家の視点から、本書の魅力や驚き、そしてそこから私たちが学べる避難所運営の知恵についてご紹介します。

笑う、避難所 石巻・明友館136人の記録 集英社新書ノンフィクション / 頓所直人 【新書】

価格:792円
(2025/5/30 10:20時点)
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書籍の基本情報

  • 書名:笑う、避難所
  • 取材・文:頓所直人
  • 写真:名越啓介
  • 出版社:亜紀書房
  • 発行年:2013年
  • ジャンル:ノンフィクション/震災記録

一見ふざけたタイトルに込められた、本気の避難所運営

タイトルだけ見ると「ふざけているのかな?」と誤解されるかもしれません。
ですが内容は、極限状態の中で人々がどうやって互いに助け合い、笑顔すら生まれる空間を作り上げたのかという、真剣な記録です。

舞台は宮城県石巻市にある「明友館」。ここは行政の指定避難所ではなく、自主的に人々が集まった場所、いわゆる自主避難所でした。

行政の支援が届かないなか、そこにいた136人の避難者たちは、ただ援助を待つだけでなく、「支援する避難所」として機能し始めます。

ひとりの男が避難所を変えた──千葉恵弘さんのリーダーシップ

この明友館で非常に重要な役割を果たしたリーダーが、千葉恵弘さん(当時43歳)。この人物の傑出したリーダーシップと独特な発想で、明友館は世にも珍しい他の被災者を支援する機能を持つことになります。

彼は自らの人脈をフル活用し、遠隔地から支援物資を集め、物資を効率的に分配し、他の避難所へも支援を広げました。行政的な手続きや形式にとらわれることなく、「困っている人から優先的に支援すればいい」というシンプルでまっすぐな信念で動いていたのです。

その姿は、私がこれまで数多くの災害現場で見てきた「柔軟な現場判断」の大切さとも重なり、非常に共感を覚えました。

モゲラ的・注目ポイント3つ

1. 行政に頼れないからこそ生まれた“現場力”

明友館には、「支援は受けるもの」という常識は通用しませんでした。
だからこそ生まれたのが、“現場で今できることを全力でやる”という姿勢です。

支援物資の仕分け・配布も、千葉さんの判断で素早く行われました。
被災者が信頼し合い、自主的に動くことで、「支援が循環する避難所」が現実のものとなったのです。

2. 「平等」より「必要」を優先する支援のあり方

指定避難所でよくある「物資は人数分揃わないと配れない」といった制度。
人間関係が悪化しやすい避難所では平等も大切かもしれませんが、困っている人がいるのをなんとかしたい彼にすれば
「それで文句言ってくる奴には『うるせーこのやろー、ちょっと我慢してろ』という感覚」なのだそうです。

避難所運営を的確に行っていきたい立場からすれば、ある意味「合理的」なルールでも、困っている人を助けるためには弾力的な対応が必要な場合もあるでしょう。

3. 人は“ユニフォーム”に弱い

彼は普通の肩書のない人物が支援すると言っても警戒されるというので、避難所外で支援活動をする際は、「防災指導員」と書かれたベストを着ることで信頼を得たというエピソードも印象的でした。

混乱の中で見知らぬ人への警戒心が強くなるのは当然ですが、「見た目」が人々の安心感につながるという事実は、防災活動において大いに参考になります。

本書を読んで学べること

『笑う、避難所』は、被災地の「きれいごとでは済まされない現実」を教えてくれます。

たとえば、津波によるヘドロの悪臭、着替えられず泥まみれで過ごす人々、ハエの大量発生、詐欺まがいの商売……そうした細かな描写から、想像を絶する被災後の生活がリアルに伝わってきます。

そして「避難所から出た後の暮らし」も大きな課題です。
仮設住宅が与えられたからといって、自立できるとは限らない。仕事を失い、日常を再建できないまま苦しむ人々がいる現実も、本書は静かに訴えかけてきます。

モゲラの感想まとめ

ここまで強い自主性と行動力を持った避難所があったとは驚きです。

「被災者は弱い存在」ではなく、「誰かを助ける力を持っている存在」でもある。
そんな勇気と気づきをくれる一冊です。

本書に描かれた明友館のような例があることで、避難所のあり方、そして地域の防災力の考え方がガラッと変わるかもしれません。

こんな人におすすめ

  • 避難所運営に携わる方や自治体関係者
  • ボランティア活動や支援の現場に関心がある方
  • 防災に興味があるけれど、まず何を読めばいいか迷っている方
  • リーダーシップや現場対応に関心のある方

今日からできる防災アクション

  • 自治体の指定避難所だけでなく、自主避難所の情報にも目を向けてみましょう。
  • 地域の防災訓練に参加し、自分が「支援する側」になる可能性も考えてみてください。
  • 自宅での備蓄だけでなく、「助け合える近所づきあい」があるか見直してみましょう。

笑う、避難所 石巻・明友館136人の記録 集英社新書ノンフィクション / 頓所直人 【新書】

価格:792円
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ABOUT ME
もげら47
自衛隊で大型輸送ヘリの機長として15年勤務。その間、震災や林野火災など数多くの災害派遣に出動。その後消防防災航空隊に転職し、消防防災ヘリの機長として、10年以上にわたり山岳救助、空中消火活動などに従事。 次いで2年間地方自治体の防災課で防災関連の事務事業を推進するなど、防災一筋の人生。 現在はこうした経験を活かし、防災士ブロガーとして防災関連の情報を発信しています。 【保有資格】 ・防災士 ・事業用操縦士(回転翼機+飛行機) ・航空無線通信士 ・乙種第4類危険物取扱者 ・他
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