基本知識

「南海トラフ地震」と「南海トラフ”巨大”地震」は違うの?誰もが間違えるその違いとは?

はじめに

「南海トラフ地震」が発生すると、静岡県から宮崎県までが大きな地震に見舞われて、しかも大きな津波が来て日本が沈没しちゃうって聞いたけど、本当?

必ずしもそういうわけではありません。
「南海トラフ地震」と「南海トラフ巨大地震」がごちゃまぜになっていますね。

え!?どういうこと?「南海トラフ地震」って要するに巨大な地震の代表だよね!?

「南海トラフ地震」と「南海トラフ巨大地震」は別で、そこには区別があるのです。今日はその違いを解説します。

南海トラフとは

まず、簡単におさらいしておきます。

「南海トラフ」というのは、静岡沖〜四国〜九州に続く「巨大な海溝」のこと。ユーラシアプレートの下にフィリピン海プレートが潜り込むところです。

日本近海のプレートの様子
日本近海のプレートの様子

太平洋側のプレートが大陸側のプレートの下に潜り込むと、陸側のプレートが引きずり込まれることで徐々に「ひずみ」が蓄積されていくと、やがて耐えきれなくなってこれが跳ね返るために地震が発生するのです。

海溝型地震発生の機構

このようにして、この南海トラフ沿いの様々な地域を震源として過去1000年で約100〜150年周期で繰り返し地震が発生してきました。これが「南海トラフ地震」です。

南海トラフ地震と南海トラフ”巨大”地震…その違いとは

南海トラフ地震

先に述べたように、南海トラフ沿いの広い範囲のいずれか(東海、東南海、南海)で発生してきた地震の総称でもありますが、これからも発生すると想定される様々な規模の地震も指しています。

南海トラフ”巨大“地震

一方、「南海トラフ巨大地震」は、「南海トラフ地震」の中でも科学的に想定し得る最大規模の地震を指します。この想定は、これまで発生してきた東海・東南海・南海地震が全て連動して発生し、しかもM9クラスの規模となるとしており、ひとたび発生すれば文字通り壊滅的な結果をもたらす「最大最凶の地震」です。

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違いは?

この違いを表にまとめると、次のとおりです:

比較対象南海トラフ地震南海トラフ巨大地震
定義南海トラフ沿いで発生し得る大規模地震南海トラフ地震の内、科学的に想定される最大規模の地震
規模様々、M7~8も含む過去の想定を超越、M9も想定
発生頻度100~150年に1回程度数千年に1回程度と想定
被害想定震源、規模によって様々・西日本地域の太平洋沿岸地域で震度6弱~震度7の揺れ
・場所によっては30mを超える津波
・全国で最大29万8千人が死亡※1
発生確率今後30年以内に発生する確率は60〜90%程度以上 ※2計算なし
※1 南海トラフ巨大地震最大クラス地震における被害想定について(令和7年3月 中央防災会議防災対策実行会議 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ)
※2 南海トラフの地震活動の長期評価(第二版一部改訂)について(令和7年9月 地震調査研究推進本部地震調査委員会)

なんだ、数千年に1回なら「巨大地震」の心配はしなくても大丈夫そうだね。

それが、そうでもないかもしれないのです。
2011年に発生した東北地方太平洋沖地震は、19世紀以降の世界観測史上でも数回程度しか発生してこなかったというM9の超巨大地震でした。だからある意味ノーマークだったのですが、実際に発生しました。

南海トラフ”巨大”地震が設定された背景

2011年の東日本大震災では、国・自治体・専門家が用いていた「M8クラス」という想定を大きく超え、M9.0という桁違いの巨大地震が発生しました。津波の高さも、従来の想定の約2倍〜3倍に達した地域が多数ありました。

こうした経験を経て「過去のデータを根拠にした想定では不十分」という反省を受け、
「最大クラスをあえて想定し、その被害を見積もる必要がある」
という考え方が国の防災計画の基本姿勢になったのです。

こうして、南海トラフ”巨大“地震を想定することになったのです。

それにしても紛らわしいし、わかりにくいよ…

名前が似ているから間違えるのも無理はありません。
けれども、この「巨大地震」は「東北地方太平洋沖地震」「北海道胆振東部地震」などの固有名詞ではなく、「最大級想定のカテゴリ」と捉えるとわかりやすいのではないでしょうか。

まとめ

「南海トラフ巨大地震」は「南海トラフ地震」の中でも特別のカテゴリであり、東日本大震災の“想定の甘さ”という教訓を踏まえて生まれたものです。

この違いを知ることで、ニュースで使われる言葉の意味をより正しく理解できるようになります。

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もげら47
自衛隊で大型輸送ヘリの機長として15年勤務。震災や林野火災など多数の災害派遣に出動。|その後、消防防災航空隊に転職し、消防防災ヘリの機長として10年以上にわたり山岳救助や空中消火活動に従事。|次いで2年間、地方自治体の防災課で防災関連の事務事業を推進するなど、防災一筋の人生。|現在はこうした経験を活かし、防災士ブロガーとして防災関連の情報を発信しています。|【保有資格】防災士・事業用操縦士(回転翼機+飛行機)・航空無線通信士・乙種第4類危険物取扱者・他| ■記事に登場する「わからんこ」や「ちびもげら」って誰? ■キャラクター紹介はこちら
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