日常の備え

南海トラフ地震に備える【宮崎県編】──津波と揺れに“どう備えるか”を徹底解説

南海トラフ地震の発生が確実視されている中、宮崎県はその影響が全国で大きい地域の一つとされています。

令和6年8月8日には日向灘でM7の地震が発生し、最大震度6弱を観測したばかりです。これにより、初の「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されたところでした。

南海トラフを震源とする巨大地震が発生すれば県内では“激しい揺れ”と“津波”による被害が想定されており、いざというときに命を守るためには、事前の準備と行動計画が欠かせません。

この記事では宮崎県に住む人々が、来たるべき海トラフ地震から「どうやって命を守るか」という視点で、防災士の立場からお伝えします。

宮崎県はなぜ南海トラフ地震で危険なのか?

ひとたび南海トラフ沿いで地震が発生すれば、県内の広い範囲で震度6強の揺れが、そして延岡市から日南市にかけての日向灘沿いの地域では最大震度7の激しい揺れが発生するとされています。
出典:宮崎県 地震・津波及び被害の想定について(令和2年3月)

さらに、令和7年3月に発表された政府の想定では、最悪の場合、県内における死者は1万9千人と想定されています。
出典:南海トラフ巨大地震 最大クラス地震における被害想定について【定量的な被害量(都府県別の被害)】(令和7年3月)

さらに海沿いの地域では10mを超える津波に襲われと想定されています(理論上最大想定の場合)。なので、まずはこの激しい揺れ津波という二つの攻撃を生き延びなくてはなりません。

そして注意すべきは、津波到達時間が短いこと。
上記の海沿いの地域では地震発生から10~20分で津波が押し寄せるとされており、揺れを感じた直後の避難行動が生死を分けます。

出典:宮崎県 地震・津波及び被害の想定について(令和2年3月)

あなたの住む地域は大丈夫?─公式資料からリスクを把握する

まず最初にやってほしいことは、自宅や勤務先の予想最大震度想定される津波の深さの確認です。以下に、南海トラフ地震において想定されるリスクをそれぞれ紹介します。

震度分布

南海トラフを震源とする、科学的に想定し得る最大クラスの地震が発生した場合の県内各地の震度分布は下図のように想定されております。

画像出典:令和2年3月 宮崎県地震・津波及び被害の想定について より

ご覧になって分かる通り、海沿いの多くの市町で最大震度7、そして広い範囲で最大震度6強などと想定されています。

なお、ここでいう想定しうる最大クラスというのは、いわゆる「最悪のケース」です。

南海トラフ沿いで発生するその「想定しうる最大クラス」ってどれくらいの頻度で発生することを想定してるの?

千年に一度あるいはそれよりもっと発生頻度が低いものと想定しています。(H25.5.28公表 南海トラフ巨大地震対策について(最終報告))

え?そんなものなの?
じゃあ「最大クラス」はまず発生しないと思って…

いやいや、そうとも言えないんですよ。
東北地方太平洋沖型の超巨大地震は、過去約3,000年で5回起きており、平均すると 約550〜600年に一度発生しています。
一方、南海トラフ沿いではM8級地震が100〜200年に一度の周期で繰り返し発生してきました
頻度が小さい東北沖型でも実際に2011年に起きたように、「確率が低い=起きない」ではありません。だからこそ、正しく恐れ、備えを具体化しましょう。

津波の深さ

想定される津波の深さについては、宮崎県が公表している「津波浸水想定(南海トラフ巨大地震等)」から確認することができます。

このページでは各市町村を更に詳しく区分けして浸水深を数字で示しています↓

画像出典:宮崎県津波浸水想定(南海トラフ巨大地震等)より抜粋

もっと大きく眺めたい場合は、国交省が公表している「重ねるハザードマップ」が便利です。

画像出典:重ねるハザードマップ より

宮崎県が公表している「ひなたGIS」(下図)というシステムでも津波の浸水想定を確認することは(一応)可能ですが、操作に慣れるにはかなり練習が必要ですし、浸水深などのレイヤーの凡例が表示されないなど使いこなすのには一定のコツが必要なので、やはり国土地理院の「重ねるハザードマップ」のほうがおすすめです。(私はこの「ひなたGIS」の使い方を理解するのに1時間くらい悩みました)

津波到達時間

「想定される最悪のケース」における県内の海沿いの地域ごとに想定される最短津波到達時間は下表のとおりで、地震発生から20分以内に津波の影響が現れるため、避難の遅れが生死を分けます。

表:宮崎県内の津波到達時間[分]

令和2年3月 宮崎県地震・津波及び被害の想定について より

こうした地域では、地震を感じた時にテレビやネットで震度や震源、ましてや津波予想を調べている時間はありません。地震発生、即避難です。

揺れのあと、逃げるために──まずは“揺れ”を生き延びる3つの備え

さて、ここまではご自宅周辺の地震被害と津波からの避難経路の確認の仕方を紹介してきました。

津波が怖いのは間違いありませんが、まず何よりも最初にやってくる地震の揺れを生き延びなくてはなりません。建物が倒壊したり、家具の下敷きになってしまっては、逃げることすらできないからです。

ここでは、地震対策としてとても重要で基本的な3つの備えをご紹介します。

その①:家の耐震性を見直そう

  • 築年数が古い木造住宅は、震度6以上で倒壊リスクが高まります。
  • 自治体の「無料耐震診断」や補助制度もチェック。

詳しくはこちら:
家の倒壊がいちばん怖い。地震への備えは“住まいの安全性”から始まる

その②:家具の固定は必須!

倒れてきた家具の下敷きになって怪我をすると、その後の避難にも影響が出ます。また、タンスや冷蔵庫が倒れて通路をふさぐと、避難経路が閉ざされます。

なお、令和6年度に宮崎県で実施された「令和6年度 津波避難等に関する県民意識調査」(有効回答者数3,108人)によると、南海トラフ地震に対し関心がある人の割合は、「非常に関心がある」、「多少関心がある」を合わせると95.1%であり、南海トラフ地震についての関心の高さが伺えます。

しかしながら、「大地震が起こった場合に備えての日頃からの対策」として「家具、家電の転倒防止措置」を行っていると回答した人は24.8%にとどまりました。

つまり、4人に3人は、固定状況が不十分ということになります。

家具固定は地震対策の定番中の定番ですが、このように実行する人は少なく、地震による被害が減らない原因の一つになっています。

地震が来るのは分かってはいるけど、家具固定ってなかなかハードルが高く感じて…

そう感じる人はすごく多いです。
この調査結果は、「関心はあるけど実行に移せない」という心理がよく現れているように見えますね。

家具固定などの対策になかなか踏み出せない一つの原因は、災害を「自分ごと化」していないことかもしれません

こちらの記事で、家具固定の重要性と具体的な方法をご案内しています。

ご一読いただければ、いても立ってもいられなくなると思うので、ぜひ読んでみてください:
やらないと絶対後悔!だけどやれば効果絶大-地震対策の定番「家具の転倒防止」

その③:寝室は“最優先”で安全に

地震は深夜に発生することもあります。そんな深夜、眠っている間は大変無防備です。だからまずは寝室防災で安全を確保しましょう。

詳しくはこちら:
実は寝室がいちばん危ない!? 地震対策は“寝室防災”から始めよう

ただし、気をつけてほしいのは「寝室さえきちんとやっておけば万事OK」というわけでもないということです。なぜなら震度7という揺れの中では、地震動に翻弄されるか恐怖に足がすくんで寝室にとっさに逃げ込むことなど不可能だからです。

津波からの避難

津波に対しては、「地震の揺れを感じた場合」や「大津波警報が発令された場合」は、一刻も早く、より高い安全な場所へ避難することがとても重要です。そのため、海岸に面した町に居住している場合、あるいは仕事や旅行などで訪れている場合には、「今津波が来るとしたらどこへ避難するか」を常に意識するように心がけましょう。

なお、津波から逃げ延びるには「津波避難の3原則」を覚えておくと良いかも知れません。

津波避難の3原則」というのは、群馬大学大学院の片田敏孝教授(当時;現 東京大学大学院情報学環 特任教授)が提唱し、東日本大震災では岩手県釜石市の小中学生らが見事に津波から逃げ切ったという「釜石の奇跡」を生み出した、津波避難のための教えです:

  1. 想定にとらわれるな
  2. 最善を尽くせ
  3. 率先避難者たれ

詳しくはこちらの記事をごらんください。

津波避難の三原則とは?釜石の教訓に学ぶ命を守る行動

逃げなきゃならないことは良く分かったよ
で、具体的にどこへ避難すればいいの?

お住まいの市町村では津波を始めとする「緊急避難場所」を設定しているので、それらを確認しておきましょう。

あわせて読みたい:
ハザードマップの正しい使い方|防災士が教える7つの種類と活用法

避難後に生き延びる──最低限の備えと心づもり

地震の揺れと津波から生き残った後のことも考えておかなくてはなりません。

食料や飲料水などの自宅備蓄

断水したり食料品の調達ができなくなることも想定すると、自宅には相応の備蓄をしておく必要があります。

  • 水、非常食、非常用トイレ
  • カセットコンロとガス缶
  • 懐中電灯や乾電池、衛生用品など
非常食の例

あわせて読みたい:
その備蓄で大丈夫?今すぐ始めるべき正しい災害備蓄の方法

家族での取り決め

仕事や学校に行っている間など外出中に発災すれば、家族が離れ離れで避難することは十分ありえます。実際、平成23年東日本大震災では平日(金曜日)の日中に発生しています。

インターネットが使用できる限りは、スマホや携帯電話を持っている人同士であれば連絡も取れますが、子どもはそうは行きません。非常時の集合場所と連絡手段をあらかじめ話し合っておきましょう。

また、ネットが使えない状況で遠隔地に住む親類・知人と連絡を取りたい場合などは災害伝言ダイヤルという方法があります。

災害伝言ダイヤル

あわせて読みたい:
災害時の連絡手段、どう備える?本当に役立つ通信方法とは

宮崎県のリスクは確かに高い。でも、備えることで命は守れる

南海トラフ地震は確実に起こるとされています。
でも、事前に知り、考え、備えておけば、“命を守る”ことはできるのです。

防災の第一歩は、「知ること」そして「行動すること」。
この記事がそのきっかけになれば幸いです。

ABOUT ME
もげら47
自衛隊で大型輸送ヘリの機長として15年勤務。震災や林野火災など多数の災害派遣に出動。|その後、消防防災航空隊に転職し、消防防災ヘリの機長として10年以上にわたり山岳救助や空中消火活動に従事。|次いで2年間、地方自治体の防災課で防災関連の事務事業を推進するなど、防災一筋の人生。|現在はこうした経験を活かし、防災士ブロガーとして防災関連の情報を発信しています。|【保有資格】防災士・事業用操縦士(回転翼機+飛行機)・航空無線通信士・乙種第4類危険物取扱者・他| ■記事に登場する「わからんこ」や「ちびもげら」って誰? ■キャラクター紹介はこちら
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