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もう悩まない!防災訓練のネタ切れを解決する“地震体験”の活用法

「会社の防災訓練、毎年毎年避難訓練ばかりでネタが尽きた…」

防災訓練のマンネリ化は、多くの企業の防災担当者が抱える悩みのひとつです。
この記事では、マンネリ化に悩む企業の防災担当の方々に向け、一つの選択肢として地震体験について解説します。最後まで読めば地震体験を実現するための手順と、そうすることによる大きなメリットをご理解いただけます。

防災訓練のマンネリ化打破には体験型訓練がおすすめ!

毎年同じ避難訓練やビデオ視聴。参加者の緊張感も年々下がり、担当者としてはネタ探しに悩むケースも多いのではないでしょうか。

実際、私が某自治体防災課で地震体験車の管理・運用を担当していた頃、多くの企業から「訓練のネタが尽きた」「従業員の関心が薄れている」といった相談を数多く受けてきました。その声の裏には、“リアリティのある訓練”を求める切実な想いがあります。

訓練の目的は「やること」ではなく「変えること」。

そこで、その目的達成に向けた次の一手として、地震体験車防災センターを活用した“体験型訓練”はいかがでしょうか。

体験型訓練が変える、防災の意識

地震体験車とは?

地震体験車(起震車)は、地震を再現できる振動装置を備えた車両で、「地震体験の出前」ができるのが最大の特長です。

地震体験車は地震体験のデリバリーができる

多くの都道府県や市区町村で保有しており、しばしば防災訓練で地震防災啓発に使用されます。 1台数千万円と高額なため保有していない市区町村もありますが、そういう場合は都道府県から借用し運用します。

地震体験車、どうしたら使えるの?

市区町村にもよりますが、利用を希望する場合は市区町村の防災部局や、あるいは管轄消防署を通じて申し込み、派遣・運用してもらいます。

なお、申込みの仕方は自治体ごとに異なるため、詳しくは事業所の所在する市区町村や管轄の消防署にご確認ください。

ただし、多くの場合予約がすぐに埋まってしまうので、早めに問い合わせることをおすすめします。

誤解されがちな「地震体験」の本当の目的

この地震体験がどうして地震防災啓発になるのでしょうか。

「地震の怖さを体験するため」とか「揺れに慣れておく」ため、でしょ?ちがう?あ、わかった、テーブルの下に隠れる練習か!

どれも違います。
地震体験の本当の目的は、体験を通じて“もしこの揺れが自宅や事業所を襲ったら”と想像し、家具固定を始めとする地震への備えという具体的な行動につなげてもらうことです。

「地震体験」では揺れを自分の体を使って記憶するので、終わった後も地震が事業所や自宅に与える影響を想像することが出来るというのが最大の強みなのですね。

この目的を理解した上で地震体験に臨んでもらうことが非常に重要です。
さもないと「あー怖かった!」で終わってしまって次の行動につなげられません。

大事なことなのでもう一度言います。
地震体験は、先に目的を理解してもらってから参加してもらってください

防災センターという“訓練の宝庫”

地震体験車、申し込んでみたけど何ヶ月も先まで予約一杯だったよ~

やはりそうですか。よくあることです。
小中学校でも防災訓練のネタに使ったりしますからね。

そんなときはお近くの「防災センター」を活用しましょう。

防災センターは、多くの自治体が設置している防災啓発のための施設です。ここでは地震体験装置に加え、煙避難体験施設、訓練用消火器を使った初期消火訓練装置、ゴーグル型VRによる災害シミュレーションなど、さまざまな防災体験が用意されており、専門の説明員が解説をしてくれます。しかも多くの場合、無料で利用できます。

地震体験装置の例(富山四季彩防災館にて)
地震体験装置の例(富山四季防災館)

事業所まで自信を「出前」してくれる地震体験車と違って現地まで赴かなくてはなりませんが、従業員の防災意識を変えることができるのであれば、それだけの価値はあるといえます。

ところが、防災センターの存在は、意外と知られていません。“地震体験車”や“防災センター”に“地域名”を組み合わせて検索すれば、施設情報や予約方法が見つかるので、是非調べてみてください。

地震体験が企業の事業継続につながる理由

内閣府が実施した「平成30年度に発生した自然災害に対する企業等の取組みに関する実態調査(2019年3月)」によれば、企業が「直接受けた被害」としては、「従業員が出勤できなくなる」が最も多い回答でした。

出典:内閣府防災情報のページ

もし、地震体験を通じて従業員一人ひとりが自宅の家具固定や備蓄を進めていたら――企業としての機能維持への貢献が期待できます。

災害の事業中断は、単なる機会損失だけではなく、その間に顧客を失ったり自社の財務状況が悪化したりして企業存続の危機にすら発展することが考えられます。

また、自社だけでなくサプライチェーン全体に悪影響を及ぼすリスクも無視できません。

実際、先述の実態調査で「間接的に受けた被害」としては「災害により物流が停止し、入荷や出荷ができなかった」という回答が最も多く、また、「仕入先・販売先等の被災により影響を受けた」という回答も多かったことも注目されます。

「間接的に受けた被害」としては「災害により物流が停止し、入荷や出荷ができなかった」という回答が最も多く、また、「仕入先・販売先等の被災により影響を受けた」という回答も多かった
出典:内閣府防災情報のページ

だから、災害に備えることは“企業の社会的責任”でもあるのです。

しかしこれは言い換えれば、企業が災害に備えることは、その企業自身のみならず、従業員、関連企業、そして地域にとっても良いことずくめ、win-winどころか「四方良し」の「皆が得をする」構図が達成できるともいえるのです。

「体験で終わらせない」訓練設計のすすめ

体験型の訓練は、それだけでも効果がありますが、より大きな効果を得るには“行動につなげる仕掛け”が必要です。たとえば地震体験に続き、訓練に参加した人達で…

  • 事業所内の危険箇所のチェック
  • オフィス什器や家具の固定
  • ガラス飛散防止フィルム貼付
  • 避難経路確保のための整理整頓

など、自身の手で事業所内の物理的な改善行動をするのです。

こうすることで、事業所の危険要素を取り除くという現実的成果が得られるだけではなく、従業員の防災意識も一段と向上するのではないでしょうか。

さらにこうした行動が、従業員の自宅での地震対策に対する動機づけにもなり、先に述べた「従業員の出勤不能」というリスク低減にも繋がることが期待できます。

まとめ:防災訓練を“進化”させよう

防災訓練がマンネリ化するのは自然なことです。

ですが、それを打破する手段は確かに存在します。地震体験車や防災センターの活用は、従業員にリアルな危機感を届け、実際の行動に結びつける大きなきっかけになります。
そしてその行動は、災害への抗堪性強化につながり、取引先や地域への信頼へもつながるのです。

防災訓練は、“やること”より“変わること”が大切。

次の訓練企画には、こうした体験型訓練を選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。

ABOUT ME
もげら47
自衛隊で大型輸送ヘリの機長として15年勤務。震災や林野火災など多数の災害派遣に出動。|その後、消防防災航空隊に転職し、消防防災ヘリの機長として10年以上にわたり山岳救助や空中消火活動に従事。|次いで2年間、地方自治体の防災課で防災関連の事務事業を推進するなど、防災一筋の人生。|現在はこうした経験を活かし、防災士ブロガーとして防災関連の情報を発信しています。|【保有資格】防災士・事業用操縦士(回転翼機+飛行機)・航空無線通信士・乙種第4類危険物取扱者・他| ■記事に登場する「わからんこ」や「ちびもげら」って誰? ■キャラクター紹介はこちら