防災ヘリ

川遊びで命を落とさないために――元防災ヘリ機長が語る“川の本当の怖さ”

はじめに:川は“レジャー施設”ではありません

「川遊び=楽しい思い出」
そんなイメージが多いかもしれません。けれど、まず知ってほしいのは――

川は、安全がまったく担保されていない“自然そのもの”」だということ。

川はプールとちがって、流れがあり、急に深くなるところもあります

プールとちがって、流れがあり、急に深くなるところもあります。
一歩踏み込んだ瞬間から、命を落とす危険と隣り合わせなのが“川”です。

楽しいのはわかりますが、川遊びが命と引き換えになるかもしれない遊びだとしたら――
楽しかったはずのレジャーが、一生を変える悲劇になることもあるということを良く考えていただきたいのです。

川に近づかないことが一番安全、どうしても行くならライフジャケットを着用

最初にお願いをしておきます。

数多くの悲惨な現場を見てきた立場から申し上げますが、川には近づいてほしくないというのが本音です。

川は危険です。リスクを知らない人にとっては余計に危険です。

それでもどうしても川に入るというのであれば、全員がライフジャケットを着用しましょう。岐阜県防災課が非常に興味深いQ&Aを公開しているので一度ご覧になってみてください。

▶️水難事故等に関するQ&A(よくある質問)

実際に、川での水難事故は後を絶ちません

毎年夏になるとニュースで見聞きする痛ましい水難事故。
特に川での溺水事故は後を絶ちません。

警察庁の2023年統計によると、全国で発生した水難事故の死者・行方不明者は743人でしたが、そのうち河川での発生者数は248人で全体の三分の一を占めています。ちなみにプールでの死亡は6名なので、その危険性の高さが分かるというものでしょう。

▶️令和5年における水難の概況等(警察庁)

特に子どもは危険で、水難死亡事故の約6割が川で発生しており、「夏の楽しいレジャー」の陰で、毎年命が奪われ続けている現実があります。

特に子どもは危険で、水難死亡事故の約6割が川で発生

こちら↓ではこれまでに発生した水難事故の発生場所が地図でご覧いただけます。
▶️全国の水難事故マップ(川・湖沼地等)
今から遊びに行こうと思っているところがどれくらい危険なのかを把握しておくとよいでしょう。ただし、事故発生の記録がないから安全とは思わないでください

捜索の現場では、ほとんどが“心肺停止”という結末に

筆者は、防災ヘリの機長として数多くの水難事故に出動してきました。

しかし多くの場合、ヘリで要救助者を発見した時には川底に沈んですでに動かない姿になっているか、或いは「隈なく捜索するも透明度が低く上空からは発見不能」となってgive upするかのいずれかでした(この場合は消防の潜水隊により捜索が継続される)。

なぜこういうことになるのか。

河川での溺水は一瞬です。あっと思った瞬間に流されたり、足が届かないということになり、声も出せずにひっそりと溺れ始めます

これに対し、ヘリは離陸までに様々な準備をしなくてはならず、要請から現場到着までは(場所にもよりますが)30分くらいかかるケースもあります。要救助者がライフジャケットを着用していれば溺れることもなく、普通はヘリ到着前に地上隊で確保出来るので、その時点でヘリの出動要請は取り下げられます。

一方ヘリに捜索が依頼されるということは、それは即ち「沈んだ」ということです。

ヘリに捜索が依頼されるということは、それは即ち「沈んだ」ということです

119番通報から何十分も経過して、生きて発見されるという例は、私の知る限りありませんでした。このように水難救助任務では多くの場合“手ぶら”で帰ることになるので、クルー一同、「ライフジャケットさえ着用しておけば」と悔しく、やるせない思いをするものです。

「助けに行った親が亡くなる」二次災害が多数

河川財団の調査では、川で溺れた子どもを助けようとした親が、そのまま一緒に流されて命を落とすという事例が非常に多く報告されています。

わが子を助けようとするのは、親として至極当然の行動です。

しかし、準備も装備もないまま飛び込めば、親子で命を落とす最悪の結末になってしまいます。ニュースでもよく見聞きする悲劇ではないでしょうか。一人残されたお母さんは…。

流された人がライフジャケットを着用していれば、救助者が慌てて丸腰で飛び込むこともありません。だから、そういう二次災害を防止するためにも、水に近づく人全員がライフジャケットを着用しておくことがとても重要なのです。

水に近づく人全員がライフジャケットを着用しておくことがとても重要

また、川で流されて溺れるまでは一瞬ですし、溺れる人は声も出さず静かに溺れるので、お父さん、お母さんは岸辺でただ見守るだけでは不十分です。

自分もライフジャケットを着用したうえで子どもよりも下流で待機してください

それでも川に近づくなら…最低限の備えを

最初に申し上げた通り、川に入ること自体をおすすめできません。リスクを知らない人が多すぎるからです。

ただし、それでも「どうしても水辺に近づく」という場合は、以下の対策を“最低限の命綱”として徹底してください。

【川に近づく前に必ず守ってほしいチェックリスト】

川に近づく前に必ず守ってほしいチェックリスト

参考になる記事

▶️川の中や水際などにおける水難事故を防止するための対策(公益財団法人 河川財団)
▶️水難事故等に関するQ&A(よくある質問)

まとめ:「無事に帰ること」が、最高の思い出です

川は、決して人間に優しい場所ではありません。
一瞬の判断ミスが、かけがえのない命を奪っていきます。

「楽しそうだから」「周りもやってるから」――
そんな理由で川に入るのではなく、「どうすれば全員が無事に帰れるか」を真っ先に考えてほしい。

楽しいはずのレジャーが結果として命懸けになってしまった人達を見てきた立場から、本当にそう思います。

あわせて読みたい:
▶️防災ヘリの現場から【第1部】低山こそ危ない?道迷いから学ぶ登山の心得
▶️元防災ヘリ機長が全てお答え!防災ヘリによる山岳救助の疑問と回答!

ABOUT ME
もげら47
自衛隊で大型輸送ヘリの機長として15年勤務。その間、震災や林野火災など数多くの災害派遣に出動。その後消防防災航空隊に転職し、消防防災ヘリの機長として、10年以上にわたり山岳救助、空中消火活動などに従事。 次いで2年間地方自治体の防災課で防災関連の事務事業を推進するなど、防災一筋の人生。 現在はこうした経験を活かし、防災士ブロガーとして防災関連の情報を発信しています。 【保有資格】 ・防災士 ・事業用操縦士(回転翼機+飛行機) ・航空無線通信士 ・乙種第4類危険物取扱者 ・他
RELATED POST